パソコンとスマホ、文書入力に便利なのはどっち? 比べながら、仕事で使いこなす方法を考えた

私たちが普段から使っている、パソコンのキーボードによるローマ字入力とスマホのフリック入力。以前は「スマホに特化した、後発の入力方式」といった印象だったフリックもすっかりおなじみの技術になり、近年は「ローマ字入力よりも、フリック入力のほうが得意」「大学のレポートをフリックで書く」という若い世代も増えてきているようです。

しかし、人によってはついつい「パソコンのほうが楽だし、早くない?」と考えてしまいがち。スマホでビジネスのやり取りが必要になる場面も増え、「ローマ字入力世代」も、もっとフリック入力の良さを理解したいところです。

そこで、本日は「なるモ」編集部のメンバーで「パソコンでのローマ字入力と、スマホのフリック入力を比較する」検証に挑戦。フリック入力を使いこなして、スピードをもっと上げるには? 「フリック入力に向いている文書」と「そうでない文書」とは? 検証の模様をどうぞ!

検証は、以下のルールで行いました。

・内容の違う3つの例文をパソコンのローマ字入力とスマホのフリック入力でそれぞれ打ち込み、タイムを計測する。

・予測変換など、スマホとパソコン、それぞれが持つ機能は使用しても良い。

・原則的に計測は1度のみ(予測変換機能で2 回目以降のタイムに影響が出るため)。

・タイプミスは、気付いたらその場で修正するように努める。

・パソコンはMacBook Air、スマホはiPhoneを参加者全員が使用。

・キーボードによるローマ字入力のタイムを基準とする。それとフリック入力のタイムを比較することで、両者の特徴を考えよう!

編集部D

編集部D

最年長の検証メンバーで、ブラインドタッチは『特打』を遊んで中学生の頃に覚えた。社会人になったばかりの頃にスマホが普及、自分でも使うようになったが、フリック入力を覚えたのは3年ほど前。

編集部W

編集部W

ブラインドタッチは、高校生時代にネットに入り浸って覚えた。フリック入力は学生時代に習得。参加者3名のなかでは、ローマ字入力もフリック入力もバランス良く使っている世代。

編集部A

編集部A

まだ社会人としての歴が浅い、検証の最年少メンバー。学生時代はパソコンを使う機会がなかなか無く、フリック入力のほうが身近。卒論はパソコンで書いたが、ローマ字入力に慣れる前に書き上げてしまったので、ブラインドタッチはできない。

▲タイムの計測は、皆で机を並べて行いました

タッチパネルでの入力を、どう安定させる?

1本目は、100字程度の短文でした。ご覧いただいているWebメディア『なるモ』の紹介文です。日本語中心のテキストにしたかったので一部をカタカナにしています。

例文1

なるモは株式会社アイキューブドシステムズが運営するモバイル活用のウェブメディアです。ちょっとしたスキマ時間などに、肩の力を抜いて楽しく読んでもらえるようなビジネスのお役立ち情報を記事にして紹介していきます。 (103字/日本語のみ、例文として使用するため一部を変更)

そして、みなさんの計測結果は以下のとおりです。

例文1のタイム

編集部D ローマ字:54秒/フリック:1分18秒

編集部W ローマ字:49秒/フリック:1分8秒

編集部A ローマ字:1分29秒/フリック:1分22秒

全体的に、それぞれ「自分が慣れ親しんだ入力方法」のほうが早い、という結果になりました。DさんとWさんはローマ字入力、Aさんはフリック入力のほうが良いタイムが出ていますね。

編集部W
編集部W

あれ、意外とフリックのほうが時間かかっちゃいましたね。ローマ字入力より早いと思ってたのに。

入力してみてどうでしたか?

編集部D
編集部D

キーボードを使った入力はいつも通りだけど、フリックは「103字なのに、こんなに大変だとは!」って感じでしたね。急いで入力したのもありましたが、途中にタイプミスとかも起きがちで慌てて直したりして。

編集部W
編集部W

あ、読み返したら「です」が「ねす」になってました。意外と気付かないものですね……。

編集部D
編集部D

ガラケーみたいな物理ボタンに慣れている身からすると、スマホのフリック入力はめちゃ辛いんだよね。タッチパネルだから、物理ボタンと違ってどこを押しているかわからなくて、ミスしがちなのかも。

ちなみに、フリックのほうが良いタイムが出たAさんはいかがですか?

編集部A
編集部A

私はローマ字でもタイプミスしがちなのでなんともですが……。でも、スマホは入力するボタンと文字が出る場所があまり離れていないので。視線を上下させる幅も狭いし、キーボードよりもミスは少なく打ち込めている気がします。

確かに、ブラインドタッチが苦手な人は「入力するボタンと画面が近い」フリックのほうがミスタイプに気づきやすいのかもしれないですね。タッチパネルが苦手、という人は下半分を意識的に見るほうが入力も安定するのかも。

▲編集部Wと編集部A、2名は「画面の下半分を見ている」という回答。ちなみに筆者も、この座談会以降はフリック使用時に画面下部を見るようにしたところ、入力が比較的安定するようになりました

英数字の入力は、スマホの機能でスムーズにできる?

それでは2本目の内容と、その結果を見ていきましょうか。今回はメールのお返事を想定した文面です。

例文2

お世話になっております。 来週の打ち合わせですが、以下の時間でお願いできますでしょうか?

10/29 16時〜17時

当日のZoomのURLもお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。 (96字/漢字アルファベット含む)

比較的打ち慣れている文書になるかと思いますが、皆さんのタイムは以下の通りです。

例文2のタイム

編集部D ローマ字:51秒/フリック:1分7秒

編集部W ローマ字:43秒/フリック:50秒

編集部A ローマ字:1分31秒/フリック:1分10秒

見たところ、ひとつ目よりも皆さん良いタイムで、大きな違いは出ませんでしたね。記号の切り替えも必要なので、もう少し時間がかかるかな、と思ったのですが。

編集部W
編集部W

フリックだとアルファベットの入力は大変ですよね。タイムには響かなかったんですが、キーボードの切り替えとかで結構ばたばたしちゃって。

編集部A
編集部A

私もです。あわてて、アルファベット入力をテンキーでやろうとしちゃったんですよ。

編集部D
編集部D

ん? どういうこと?

編集部A
編集部A

アルファベットの入力はいつもスマホでも(QWERT配列の)キーボードを表示させてやっているんですが、今日はなぜかその画面がすぐに出なくて。これが無かったらもうちょっと早く入力できていたのかもしれないです。

編集部D
編集部D

え、僕はアルファベットの入力もフリックでやっているんだけど。

▲実は世界的にスマホでフリック入力を活用する国は少ない。例えば中国では「ピンイン入力」「手書き入力」等を使う。英語圏ではスマホ画面でQWERT配列のキーボードを「なぞる」、グライド入力なるものを使うユーザーも増えてきているそう

編集部W
編集部W

私はAさんと同じで、キーボードを出してやっています。アルファベットはテンキーよりもこっちの配列で頭に入っているんですよね。とはいえ、やっぱりボタンが小さいのが大変なので、日本語入力はフリックでやるんですけど。

編集部D
編集部D

このやり方が普通だと思ってた……。

使い方によっては「スマホでも、アルファベット入力にはQWERT配列を利用する」ことは選択肢に入れていてもいいかもしれないですね。数字の入力はいかがですか?

編集部D
編集部D

これ、僕はiPhoneの機能を使ってショートカットしました。iPhoneだと、数字4桁を打ち込むと、日付や時間に変換してくれるんですよ。「1029」って打ち込んだだけで、変換候補に「10/29」とか「10:29」が出る。

編集部A
編集部A

えっ、そんな機能があるんですか!?

▲数字を打ち込んだ後の変換のバリエーションは多く、日付だけでも「10月29日」と「10/29」、2種の書き方が用意されている至れり尽くせりっぷり

編集部D
編集部D

他にも、「16」って打ち込んで確定すると、次に「時」とか「日」が候補として必ず出るようになってるんです。これを使えば、かなりスムーズになると思う。

編集部W
編集部W

知らなかった。今度から使うようにしよう……。

「フリックに向いている文書」と「そうでない文書」とは?

では例文3つ目の結果を見ていきましょうか。最後はちょっと長めで、ひらがなにすると300字程度のこちらです。

例文3

吾輩は猫である。名前はまだ無い。 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕まえて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。掌の上で少し落ちついて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。 (275字、夏目漱石『吾輩は猫である』より)

青空文庫から、夏目漱石『吾輩は猫である』の冒頭部分をお借りしました。普段は絶対に使わないような漢字やちょっと変わった送り仮名だらけで、スマホで打ち込むとかなり苦労しそうな文書ですが、みなさんのタイムは以下のような感じでした。

例文3のタイム

編集部D ローマ字:3分32秒/フリック:3分52秒

編集部W ローマ字:2分53秒/フリック:3分43秒

編集部A ローマ字:5分00秒/フリック:3分38秒

フリック入力だとやはり時間がかかりがちで、もっと長文になるとより差が開いていきそうですね。やってみていかがでしたか?

編集部W
編集部W

長いです。

すみません。

編集部A
編集部A

ローマ字もフリックも、めっちゃ大変でした。

本当にごめんなさい。自分もチャレンジしてみたんですが、途中で親指がつるかと思いました。

編集部D
編集部D

フリック入力だと、300字でも疲労感がすごいですね。キーボードだとそんなことは無いのに。

編集部A
編集部A

長いのもそうなんですけど、普段使わない仮名遣いや漢字も部分もしんどかったですよね。

編集部W
編集部W

そう。想像以上に面倒だったのが「見当(けんとう)」でした。「検討」「健闘」とか、普段から使っている言葉が予測変換の上位に来ちゃうので、がんばってスクロールしないと「見当」にたどり着けない。パソコンであればスペースキーを連打すればいいので多少は楽なんですが。

編集部D
編集部D

それもあるし、iPhoneだと「書生(しょせい)」は「女性(じょせい)」が先に出てこなかった?

編集部A
編集部A

出ました!!!

編集部W
編集部W

私も出ました! 「しょせい」と打ち込んでいるはずなのに、「じょせい」が出る。「それじゃないんだよ!」って。

▲初回こそ「しょせい」から「女性」を提案したiPhoneだが、一度「書生」を使用するとそちらが記憶され、次回以降は「女性」の提案が行われなくなるのもポイント

iPhoneの場合、使う人によるタイプミスを多少であればカバーして予測変換を出してくれますよね。「ありがもつ」くらい入力がメチャクチャでも「ありがとう」が予測変換第一位に出る。普段はありがたい機能のはずですが。

編集部D
編集部D

少なくとも僕は「書生」って打ち込む機会がめったに無いから、「『女性』じゃない?」ってなりますよね。iPhoneもびっくりしたと思うよ。

結果として、スマホ側の善意を無下にしてしまった……。

編集部D
編集部D

「恐しい」(現代語の表記では「恐ろしい」が一般的)みたいな古い使い方の言葉も多かったし。フリック入力はそもそも長文を打ち込むだけでも大変だし、細かい表現を調整する手間も考えると、どうしてもキーボード入力のほうが便利かな……。

「短文の楽さ」と「パーソナライズ」がスマホの強み

ということで、みなさんご協力ありがとうございました。それぞれのタイムだけを見るとどうしてもキーボード入力のほうが早くて、「フリック入力よりも、全体的にキーボードのローマ字入力のほうが優れている」という結論になってしまいそうですが。

編集部W
編集部W

フリックのほうが早いと思っていたので、想定外の結果でしたね……。いかに自分が、使い慣れている短文ばっかりスマホで打っていたのか、ということを思い知りました。

と、いうと?

編集部W
編集部W

私はフリック入力でLINEの返事がめっちゃ早いんですが、それってよく考えたら「りょ」って打ち込んで、予測変換の「了解です」をタップしてるだけじゃないですか。改めてやってみると、フリックでゼロベースから文書を打ち込むのはこんなに大変だったんだなって。

編集部D
編集部D

きっと「スマホ(フリック)で入力するのに向いている文書とそうでない文書」があるんだと思います。2つ目のメール文書は、わかりやすく「スマホに向いている」文書だったけど、最後の『吾輩は猫である』は明らかに「向いていない」文書なんですよね。

編集部A
編集部A

私たちが普段から使っている言葉ともぜんぜん違いますからね。

編集部W
編集部W

逆に2本目は普段から社用のチャットとかメールで打ち慣れている文書だから、比較的スムーズに打てたのかもしれない。

編集部D
編集部D

そうそう。プライベートとか仕事で使い慣れている言葉はスマホも覚えているから。逆に、「使い慣れていない言葉」で文書を作るなら、個別対応ができるキーボードのローマ字入力が便利。

そう考えると「りょ」と打ったら「了解です」が一発で提案されるのはスマホならではの強みですよね。

編集部W
編集部W

そうですね。キーボードを操作する手間を考えると、10文字に満たないような本当に短いテキストを打ち込むなら、所要時間に差は出なくても、タップの回数も少なくて済むフリック入力のほうが圧倒的に楽。

設定しなくても使用者にあわせた使い方ができる「パーソナライズ」の要素もスマホの機能があるからこその強みかもしれない、と。

編集部D
編集部D

もしかしたら、さっき打ち込んだ「なるモの説明文」をフリック入力の予測変換をフル活用してもう一度入力してみたら、ちょっとタイム短縮できるんじゃない?

一度は入力した文書なので、予測変換もいい感じに反応してくれそうですね。

編集部W
編集部W

おもしろそう。やってみましょうか。

例文1※2回目のチャレンジ、フリック入力のみ

編集部D 1分5秒(1回目から13秒短縮

編集部W 1分6秒(1回目から2秒短縮

編集部A 1分13秒(1回目から9秒短縮

編集部D
編集部D

なるほど……?

編集部A
編集部A

ちょっとだけ早くなりましたね。本当にちょっとだけ。

編集部W
編集部W

私はそんなに短縮できませんでしたが……。でも予測変換でタップの回数も減ったので、入力はそれなりに楽でしたよ。

編集部D
編集部D

でも、1分10秒かかっていた103文字の入力で10秒くらい短くなった、と考えると、なかなか無視できない結果な気もする。

やっぱりフリック入力はスマホの機能までフル活用してなんぼ、ということかもしれないですね。

フリック入力の強みを知って、自分にあわせて使いこなしたい

 

パソコンのキーボードを使ったローマ字入力とスマホのフリック入力、それぞれを比較したところわかったのは以下の3点でした。

1.「フリック入力に適した文書」と「そうでない文書」がある

スマホのフリック入力が得意とするのは、あくまでも「日常的な意思疎通」で使われる文書(テキスト)の入力です。公的な改まった文書、日常的でない文書、特徴的な文体などを書かなければいけない場合は、どんな表現にでも対応できるキーボードによるローマ字入力に軍配があがりそう。

2. フリック入力をカバーする、スマホの機能を活用したい

例えるなら、フリック入力は「超」短距離走者で、キーボードのローマ字入力は長距離走や障害物走もいけるオールラウンダー。入力スピードやフレキシブルさを考えると、フリック入力がキーボード入力に勝つのは難しい、というのが正直なところ。

しかし数字や頻出語の予測変換を活用することで、ローマ字入力のスピードに近づく、時には追い越すこともある。

3. フリック入力が輝くのは短文の入力時。長文の資料作成はキーボード+ローマ字で

スマホは定型文や予測変換を活用することが前提となった作りであるため、「ゼロから、文字数の多い文書を作る」のであればキーボードとローマ字入力を使うのがスムーズ。フリック入力の良さはあくまでも短文で発揮されるもの。

日常使いしているからこそ、それぞれの良さをあらためて感じるのが難しい両者。それぞれの特性をあらためて知ることで、普段のお仕事にも役立ててみてください。

文:伊藤 駿 アイキャッチ:小峰浩美 編集:本田・木崎/なるモ編集部、ノオト

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