スマホ時代の育児とは? 父ライターの「ベビーテック」手記

およそ1年前に初めて子供が生まれ、父として育児と在宅仕事の両立に追われているライターのしげるさん。もともと恋愛はさほど得意でもなく、プラモデルと映画が大好きなオタク(自称)でしたが、赤ちゃんと一緒にいることで世界が180度変わり、日々価値観に変化を感じているといいます。

中でも利便性を感じているのが育児アプリ。赤ちゃんの泣き声を解析して、いま「ご飯」なのか「おむつ替えて」なのかがわかるようになったりと、旧来の子育ての価値観を一新するサービスに驚いているそうです。

こうした子育てにテクノロジーを活用することは近年「ベビーテック(BabyTech)」と呼ばれています。親がスマホを見ながら育児する姿にネガティブなイメージを抱かれることもありますが、便利なツールによって育児が捗ることは社会全体にとって有益なはず。そんな「ベビーテック」と育児の日々について、しげるさんにコラムを執筆いただきました。

しげる(ライター)

1987年生まれ、岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好。

すいません、ベビーテックに負けました

自分でもいまだにびっくりしているのだが、2022年の2月に子供が生まれた。元気な女の子である。そして、最近は子供を育てるのに便利なアプリケーションやガジェットが多々あり、それらを駆使することで子供の体調や生活サイクルを管理したり、スマートに育児ができるという。そういった諸々を総称して「ベビーテック」という名前までついているらしい。カッコいい……やってみてえ……!

と、書き出してみたものの、最初に謝っておかねばならないことがある。子供が生まれて1年と1カ月ほど経過しましたが、実のところ世間一般の「ベビーテック」でイメージされるようなスマートな育児は現状全然できておりません……!

いや、落としてはみたんですよ、育児記録のアプリとか。生後0~3カ月程度の時期は確かに生活サイクルが親子共にメチャクチャで、それをアプリで管理して両親が共有できるのってステキやん……と思って。

だがしかし、そういったアプリが一番必要な時期は、赤ちゃんが3時間おきに泣き喚いてはほんのちょびっとミルクを飲み、気まぐれに排泄をしてはオムツを替え、そうこうしているうちにまた泣き喚き……というサイクルを繰り返す時期なのである。この状況下で毎回スマホを取り出してポチポチとログを残す気力と体力は、残念ながら我が家にはなかった……! 最終的にリビングのテーブルにノートを置いておいてミルクを飲ませた方が何時に何ミリリットル飲んだか書き込むシステムになり、それすら無理でロクに記録が残っていない時期すらある。ダメな親で申し訳ない。

そんな自分の体感からすると、スマホアプリを駆使して両方の親が子供に関する記録をしっかり残し、体調や生活サイクルをきっちり管理しているというご両親は、本当にすごい。多分めちゃくちゃ仕事ができる、ちゃんとした人だと思う。誇りに思うべきである。ていうかそもそも、自分は仕事のタスク管理とかも全然できてない。最新テクノロジーを使ったスマートな子育てとか、最初から無理だったのかもしれない。

ということで、本稿は「ズボラかつ意識もアンテナも低い父親が、それでも導入してよかったな~と思ったベビーテックっぽいもの」について書いた内容となっている。文中に出てくるのがあまりにも有名なアプリばかりなので「そんなもん知ってるよ!」「何を今更偉そうに紹介しとるんじゃい」と思われる方もいるかもしれないが、「ここまで適当でもなんとかなるのか~」という実例として読んでいただいたり、また子育て中でない方には「最近はそんなのがあるんだね~」と話のタネにでもしていただけるとありがたい。

目に見えぬ胎児への不安とおさらば 妊活アプリ「ninaru」

まず妊娠中。自分は男親なので当然体内に胎児はおらず、「子供が生まれるんだぞ!」という実感は、残念ながら肉体的にはゼロである。母体の中にいる胎児は外から見えないし、胎児が大きくなってくるまでは妻のお腹を触ってみてもなんだかよくわからない。

つまり、妻が妊娠している最中の夫は、子供の成長の様子や、胎児が今どういう状態にあるのかが実感としてほとんど理解できないのだ。妻のお腹の皮膚が硬く突き出てくるのを触って「これは踵(かかと)か!?」とか言うこと程度しかできない。つわりがしんどければそれをケアしたりとか、荷物を持ったり動作をサポートしたりとやれることはたくさんあるが、肝心の胎児のことは全然わからないのである。専門書とか読めばいいんだろうけど、なかなかそんな時間もないし……。

日に日に膨らんでいく妻のお腹を眺めることしかできない自分にとって役に立ったのが、「パパninaru」というアプリである。妊娠週数に合わせて胎児や妊婦がいまどんな状態なのか父親向けにメッセージの配信や記事で教えてくれるアプリで、妊婦向けの「ninaru」はユーザー評価No.1なんだそう。これはもうド定番と言ってもいいと思う。

しかしド定番なだけあって内容も洗練されており、出産予定日を打ち込むと毎日毎日「外からは見えませんが、今日の赤ちゃんは神経とかを作ってます!」「手が動くようになってきております!」「この時期は臍の緒を引っ張って遊んでます!」みたいなことを教えてくれるのである。

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この立場になってみて初めてわかったが「外からどうなっているかひと目でわからない」という妊娠中の状況は、父親でも案外ストレスが溜まる。2~4週間おきに産科に行って診察してもらって「だいたい問題なし!」と言われるのはいいのだけど、その間に何かあったらどうしよう……と気を揉んでしまうのも人情だ。そんな時にアプリから「今はめっちゃお腹の中で動く時期です」と言われ、実際胎児がゴリゴリ動いていると「予定通りなのか~」と安心できる。これは助かった。

あと、自分は子供ができるまで「人間はいかにして細胞分裂して胎児になっていくのか」という具体的な工程を全然知らなかったし、妊娠にも前期と中期と後期があって各期で妊婦の体調がバラバラであるということも知らなかった。そのあたりのプロセスや妊婦の体調を理解できたのは、このアプリのおかげである。

生まれてしまえば、あとは目の前にいる赤ちゃんの世話をすることになるからやることはある程度クリアになる。が、妊娠中は目に見えない胎児と、自分には全く実感できない体調不良に悩まされる妻の手助けをすることになる。そんな時「今の胎児はだいたいこうなっているからこういう行動を取るといいぞ」というアドバイスをリアルタイムで届けてもらえるのはありがたかった。生まれて以降はそんなに使っていないけど、いまだに「パパninaru」には足を向けて寝られない。

「なんで泣いているんだ!?」を解決できる「パパっと育児」

生まれたばかりの赤ちゃんには、泣いてアラートを発信する機能しかついていない。動けないし話せないし飯も食えない。異常がなければ寝ているかボ~ッと天井を見ているかで、なにか異常があれば泣く。自分も、この程度のことはさすがに知っていた。しかし、赤ちゃんがあんなに泣くものだという実感は、残念ながらなかった。

ま~とにかく、泣く。最初の方で書いたように、生後3カ月くらいまでの赤ちゃんは大体2~3時間おきに泣き、そのたびにミルクを飲み、おむつを替え、やっと寝たと思ったらすぐまた泣く。ミルクをあげるにしても生後しばらくは少しずつしか飲めないから時間がかかるし、その前後には赤ちゃんをあやしながらミルクを作って適温まで冷まし、飲ませた後は寝かしつけて哺乳瓶を洗ったりといった作業があり、それをやっている間にまたすぐ泣く。泣きと泣きの間隔は、体感では5秒程度。親の記憶が最も飛びがちになるのが、この時期ではないだろうか。

この時期は過酷だが、実のところ作業自体は単純だ。赤ちゃん側の機能は「泣いてアラートを出す」だけだし、それに対してこちらが入力するコマンドも「おむつを替えてミルクを飲ませて寝かせる」ほぼ一択である。

しかし産後からさらにちょっと経つと、その入力が多少複雑になる。寝溜めと食い溜めがちょっとずつできるようになるため、おむつを替えてほしいタイミングと腹が減るタイミングと眠くなるタイミングがずれてくるのだ。

こうなると、こちらも「この子は一体なぜ泣いているのか」を考えて、需要にコマンドを入力する必要が出てくる。まあ、その相手は話せない赤ちゃんなんですけども……。

そんな時に使ったのが「パパっと育児」だ。このアプリ、基本的には自分が使いこなせなかった育児記録系アプリである。しかし、アプリ内に「泣き声診断」という機能がある。これは「のべ2万人のモニタユーザから収集した泣き声のデータなどをもとに作られた、赤ちゃんの泣き声から感情を推測するアルゴリズム」を使った機能なんだそうで、スマホに泣き声を吹き込むと、泣いている理由を表示してくれるという優れものである。

これが役に立った。というのも、赤ちゃんには「なぜ泣いているのかよくわからない時」というのがある。まだ昼寝の時間じゃないから寝ぐずりではないし、さっきミルク飲んだところだから腹は減ってないし、おむつもキレイだし、それなのにそんなに泣いて、一体何が不満なの……という時があるのだ。前述のように赤ちゃんの泣いている状態はなんらかのエラーを受けてのアラートの表示であり、ひょっとしてなんかの病気だったらイヤだな……といらぬ想像をするのが、ルーキーの親なのである。

そんな時にこの泣き声診断を投入すると、「怒っている 80%、眠い 20%」みたいな感じで号泣の原因が表示される。「なるほどキミは怒っていたのか……じゃあまあ、ほっときゃいいか……」という判断ができるようになり、晴れて親は赤ちゃんをベビーベッドに置いて、おのおのの仕事ができるのである。

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特に難しいと感じたのは、「体調不良でもなんでもないので、泣いているけど放っておいていい」という判断だ。毎日あやしていれば「まあ泣いてるけど、他のことは全部やったし、これはほっとけば寝るんだろうな」というのはわかってはくる。しかし前述のように、万が一何か異常事態だったら……という可能性がどうしても脳裏をよぎる。そんな時に「ほっといて大丈夫だぞ」と後押ししてくれる役割を、このアプリは果たしてくれた。そりゃBABY TECH AWARD JAPAN 2019の健康部門大賞も受賞するわけである。

慣れてくると、時間と泣き方から「あ、これは眠くて泣いてるな」「腹が減っているな」「なんか機嫌が悪いだけだな」という判断ができるようになり、パパっと育児を使う機会も最近は減った。たま~に使ってみて「これは眠くて泣いているな」みたいな自分の判定が当たっているかどうかを試したりする程度である。しかしこれがけっこう外れていたりして、「まだまだだな……」と反省したりしている。

結局最強のベビーテックは「動画とハードウェア」なんだよな……

今現在うちで最もバリバリ活躍しているテック的なアイテム、それはFire TV Stickである。「である」などと偉そうに紹介するような物でもないと思うけど、正直一番役に立っている。暇を持て余した赤ちゃんにテレビ東京の子供番組『シナぷしゅ』をYouTube公式チャンネルで見せまくり、コンセントやゴミ箱、テレビの配線といった絶対に触ってほしくない物から気を逸らしているのだ。

ちょっと自力で動けるようになってきた子供というのは、本当に親の最もやってほしくないことを、最もやってほしくないタイミングでやらかす。視界から消えたと思ったら電気コードを舐めようとするし、ゴミ箱をひっくり返して中身を舐めようとするし、ティッシュを全部引っ張り出してパクパク食べようとするのである。ひとつの遊びに集中するどころか、まだ「遊び」という概念すらインストールされていない子供にとって、家の中は巨大なオープンワールドゲームである。家の中のあらゆる物体を掴み、舐め、そして移動してはまた掴んで舐める様子は、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を初めてプレイしたゲーマー並みだ。

そんな赤ちゃんの気を逸らし、一時的にでも動きを止め、少しでも間を保たせたい……という親の切実な願いを受け止めてくれるのが、YouTubeでありAmazonプライムビデオであり、その再生機器であるFire TV Stickやスマートフォンなのだ。

いやほんと、動画でも見せてないと赤ちゃんというのは動きを止めないのである。もちろんずっと見せていると飽きてくるので一時的な効果しかないのだが、それでもあるとないとでは大違い。『シナぷしゅ』に気を取られている合間に家事を片付け、仕事をし、飯を食う。それが0歳児の親である。

いや、それってテックというほどのものなのかと言いたくなるのは重々承知だ。しかし考えてもみてほしい。配信で24時間いつでも見たいものを好き勝手に見られる環境、定着したのってそれなりに最近じゃないですか?

地上波しかなかった時に「ひたすらYouTubeで子供番組ばかりを再生する」みたいなことはできなかった。ビデオやDVDすら用意せず、ボタン一発で子供好みの映像をエンドレスで再生できる環境は、昭和生まれの自分からすれば充分「最新技術の恩恵を受けているな!」と感じる。ハードとソフトの進歩によってもたらされた環境に寄りかかって子育てしているんだから、「好きなタイミングで好きなだけ動画を見られる」という状況だって立派なベビーテックだと思う。

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「子供に動画を見せっぱなしの親ってどうなの?」という議論があるのも重々承知である。昔は自分もスマホで動画を見せている親を見て「最近の親っぽい絵面だよな~どうなんだろうな~」と思っていた。

しかし実際にやってみると「こりゃ仕方ねえや」と思うようになった。本当に子供は動きまくるし、やってほしくないことをやりまくるし、その対策として「動画を見せる」のが便利すぎるのである。見せっぱなしはよくないと言われても「じゃああなたが24時間いつでもこの子の機嫌をとってくれるんですか!?」と言い返したくもなる。ほどほどにバランスが取れてて、飯食ってモリモリでかくなってれば、あとは子育てなんてそこそこ大雑把でいいんじゃないの……というのが、最近の自分の心情である。

楽しみなのは、子の成長に合わせて出現する新たな「テック的なもの」

最後の方は身も蓋もない話になっちゃった気がするが、そもそも子育てというのは身も蓋もないものなのだろうとも思う。スマホやアプリでログを取って効率的に子育てをする点については挫折してしまったけど、まあ、それは向いてなかったなということで割と納得している。まずは子供を健康に大きくするのが第一の目標であり、そこは妻やその他の人々の多大な貢献のお陰でなんとかなっているし、まあいいか……といったところである。

むしろ楽しみなのは、今後子供の成長に応じて出現するであろう、新しいハードとソフトだ。超現代っ子になるであろう我が子が、自分でできることも増えてきた時に何を使ってどう遊んだり勉強したりするのか、もう全然想像がつかない。あわよくばそのおこぼれにあずかって、一緒に驚いたり遊んだりできたらいいなあ……とぼんやり考えている今日この頃である。

文:しげる アイキャッチ・イラスト:サンノ 編集:黒木貴啓/ノオト、本田・木崎/なるモ編集部

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