スマホこそ現代最強の防災グッズ!「ガジェット」で命を守る方法とは

明日、いや今日にでも災害に巻き込まれるかもしれない。それほど私たちの身近にある「災害」。

今や「防災グッズ」を備えるのは定番となりましたが、現代の防災で新たに必須となったのが「防災ガジェット」です。

スマートフォン(スマホ)を始めとする、電子機器小物やアプリを駆使した最先端の防災とはどのようなものでしょうか? ソナエルワークス代表で“備え・防災・BCP策定アドバイザー”にして、テレビ番組をはじめ多数のメディアにも出演する高荷智也さんに、ガジェットで災害から命を守るための話を伺いました。

高荷智也さんプロフィール

合同会社ソナエルワークス代表社員。備え・防災アドバイザー、BCP策定アドバイザー。 「自分と家族が死なないための防災」をテーマに、地震・水害・パンデミックなどの自然災害から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に従事する。防災系YouTuber・Voicyパーソナリティとしても活躍中。 HP:https://sonaeru.jp/works/t_takani/

高荷智也さん

「総理大臣レベル」の情報がいつも手元に?

——今、モバイル機器やガジェットは、防災においてひときわ注目されていると聞きます。

高荷さん:はい。そのなかでも、災害の不意打ちを避け、安全に避難するための情報収集を最も細かく行えるのが、スマートフォンです。命を守るために、ぜひスマホを持ってください

——もはや防災グッズの要なんですね。

高荷さん:スマホを活用することで、総理大臣や市町村長が受け取るのと同じレベルの防災情報を、誰もが同じタイミングで簡単に受け取れる時代になっているんです

——いい時代ですね。具体的に、スマホでの防災に役立つアプリはありますか。

高荷さん:以下の5つです。ニーズに応じてお使いください。

・Yahoo!防災速報

・特務機関NERV防災アプリ

・ウェザーニュース

・NHK ニュース・防災アプリ

・X(旧Twitter)

——それぞれのメリットを教えてください。

高荷さん:「Yahoo!防災速報」と「特務機関NERV防災アプリ」は、「総合アプリ」と呼ばれるもので、さまざまな災害の情報を収集できます。確実に動くので安定して情報が取れますし、スマホの消費電力も少なくて済むのが魅力です。

Yahoo!防災速報と特務機関NERV防災アプリ

▲Yahoo!防災速報(左)と特務機関NERV防災アプリ(右)

——アプリによって消費電力はそんなに違うんですか?

高荷さん:アプリによっては、インストールするだけでデバイスがすごく発熱するものもあって。特に、GPSでの電力消費が激しいそうです。この2つのアプリはその心配がなく、取れる情報の種類も多いので、総合的な防災アプリの中では頭一つ抜けていますね。

——「ウェザーニュース」はいかがですか。

高荷さん:ゲリラ豪雨などに関する情報を、プッシュ通知などからいいタイミングで送ってくれますね。お天気情報を多く取れて、正確です。

——そうなんですね。「YouTubeのライブ中継が人気」とのイメージばかりでした。

高荷さん:個人的に降雨情報は、ウェザーニュースが一番当たる気がします。

——あとは「NHKニュース・防災アプリ」も推していますね。

高荷さん:公共放送であるNHKは、災害時の報道も信頼性が高いと言えます。ある意味では、日本で唯一、公的情報を直接受け取れるアプリです。

——そうなんですか?

高荷さん:災害時にCMを付けずに報道し続ける媒体はNHKしかありません。また、スマホでよく使われるニュースアプリの多くは、情報の二次配信となります。オリジナルの情報を持っているNHK、そのほか新聞社やテレビ局が直接提供している情報を受け取れるアプリは、災害時にも有益と言えるでしょう。

——実を言うと私も使っていましたが、たしかに独自の速報は多いですね。

高荷さん:アプリとしても非常に安定していますし、災害時にはNHKニュースの生中継も見られるうえ、アプリ独自の受信料はかかりません。こういった情報アプリに加えて、X(Twitter)でリアルタイムの情報を集めるのがベストかなと。

10年間一度も壊れなかったスマホシリーズ

——災害時に考えられるモバイル機器のトラブルはありますか。

高荷さん:はい。主に「壊れる」「電源がなくなる」「電波が途絶える」の3つは、押さえるべきですね。これらの困りごとに対する打ち手を考えれば、バッチリです。

——壊れないスマホというと、高荷さんはタフスマホの代名詞、京セラの「TORQUE(トルク)」を使っていらっしゃいますよね?

京セラのTORQUE(トルク)を手に持っている写真

高荷さん:TORQUEは頑丈です。歴代シリーズを全て使いましたが、あらゆる故障が一度もありませんでした

——一度も……? すごい。平時にも、非常時にも役立つと。

高荷さん:壊れないので法人向けとしてもすごく使われています。ふだんのメインスマホとして使える基本スペックは十分にありますので。

——ちなみに、まだiPhone8くらいの古い機種を使う人も多いですね。電池が持たなくなってきた古いスマホをそのまま使い続けるのは、防災上ダメですか?

高荷さん:最低限、使いたいアプリの対応OSにアップデートできるならいいと思います。バッテリーの消費量は最新スマホとそれほど変わりませんし、電池の劣化はモバイルバッテリーがあれば補うことも可能ですので。

iPhone 6sを手に持っている写真

▲筆者私物のiPhone 6s。まだ古いスマホを使う人は少なくない

まずはモバイルバッテリーを備えるべし

——災害に遭った方の声で、「スマホの電池がなくなる」との声が目立ちます。なにか効果的な対策はありますか。

高荷さん:やはり、モバイルバッテリーを持っておくことですね。ただ、ふだんモバイルバッテリーを使わない人や、防災セットの中に入れっぱなしにしておきたい人は、乾電池式をオススメします。

乾電池式と充電式のモバイルバッテリー

▲左が乾電池式、右が充電式のモバイルバッテリー。乾電池式は1,000円前後からと安価なのが魅力

——なぜですか?

高荷さん:モバイルバッテリーは使わないまま放置すると放電してしまうので、長期保存が難しいんですよ。

——たしかに、充電式のものはいつの間にか中の電気が減っていることがありますね。

高荷さん:乾電池も、パナソニックの「エボルタ」などは10年間保存できます。非常用の電源として常備するには、乾電池タイプが有効です。

——では、もしモバイルバッテリーがない場合、どうやって電池の残量を保てばいいですか?

高荷さん:大きく3つ、節電のポイントがあります。

・CPU動作を抑える「節電モード」にする

・使っていない電波をオフにする

・画面を暗くする

電波もWi-Fiも何も使えないときは「電源オフ」がオススメです。ただし、携帯基地局の電波が生きていれば、アプリからのプッシュ通知を拾った方がいい場合もあるので、臨機応変にご判断ください。

ポータブル電源があれば「なんでも動かせる」

——あと、最近は「ポータブル電源」の名前を聞きますね。

高荷さん:たくさんの電気を貯められるので、家電なども動かせます。3.11の頃にはそもそも「ポータブル電源」という概念すらなかったのですが、ここ数年で急激に買いやすいアイテムになりました。

ポータブル電源

——どんなポータブル電源を買えばいいですか?

高荷さん:目安としては、定格出力1500W以上のものでしょうか。家庭にある100ボルトの家電は全て動きます

——ちなみに、お値段は……?

高荷さん:1500W以上になると、最低10万円はかかりますね。もし買うのが難しければ、せめてスマホや小型の家電を動かせるものを検討してください。

——安いポータブル電源も役に立ちますか?

高荷さん:もちろんです。沖縄に住んでいる人の話ですが、夏の台風で沖縄が1週間ぐらい停電した際に、ポータブル電源と扇風機を使って何とかその状況を乗り切れたそうです。

ポータブル電源と4台の扇風機

(写真はイメージです)

——扇風機は消費電力が少ないですからね。

高荷さん:そうですね、扇風機なら小型のポータブル電源でも半日ぐらいは動かせます。扇風機は、「ACタイプ」と「DCタイプ」の2種類がありますが、より消費電力の少ないDCタイプがオススメです。

——DCタイプを使うと、どれだけ電力消費を抑えられるのですか?

高荷さん:ACタイプと呼ばれる、従来型の扇風機の半分くらいで動かせます。1Wくらいあれば、すごく弱い風を起こすこともできますよ。あとは、ソーラーパネルでポータブル電源を充電できれば、長期停電にも耐えられます

——ソーラーパネルって、一般家庭でも実用性はあるんですか?

高荷さん:面積の大きいソーラーパネルは役に立ちます。A4用紙が数枚分ほどのサイズで20W前後が出力できるので、スマホ充電などには十分使えます。両手を広げたぐらいの大きさのソーラーパネルは100W以上が出力可能で、ポータブル電源だって充電できるんですよ。

▲高荷さんのX(Twitter)アカウントより

——そんなに! ちょっとしたバルコニーでも使えそうですね。

高荷さん:南向きで日当たりがよければ可能ですね。ガラス窓越しの日差しだとほぼ発電しないので、直射日光を当てる必要はあります。

——何日くらい停電になった場合を想定して、電源対策を行えばいいのでしょうか。

高荷さん:場合によりますが、目安は3日ですね。3日間完全に停電しても最低限生活できる準備をまず目標にしてください。

——なぜ「3日」?

高荷さん:大規模な災害時、最初の3日間は基本的に人命救助が最優先されます。生き延びた人への支援が本格化するのは4日目以降なので、最初の3日間は自分たちでしのぐのが原則なんです

最後は「ラジオ」が唯一の情報源になるワケ

——よく、ラジオが唯一の情報源になるから必携と聞きますが、なぜですか?

高荷さん:停電すると、テレビも、固定のインターネットも使えません。半日ほど停電が継続すると、徐々に携帯電話の基地局も落ち始めます。そうすると、ラジオが唯一広く情報を取れる手段になるんです。

——ラジオは乾電池だけで動きますもんね。持つならどんなラジオがいいですか。

高荷さん:単三電池で動いて、AMとFMが両方入って、イヤホンでもスピーカーでも聞けるものがいいですね。1,000~2,000円くらいで買えます。

ラジオを手に持つ写真

▲スターリンクなどの衛星インターネットが普及すれば防災シーンを変えるといわれるが、それさえ電源がなければ使えない。まだまだラジオは必要

——ちなみに……もしテロとか戦争に巻き込まれたとき、モバイルガジェットでできる防災はありますか。

高荷さん:特にありません。Jアラート経由で配信される弾道ミサイル情報は、スマホアプリでも得られる可能性がありますが。突発的なテロや事件の情報は防災アプリで取れませんので、できるのは生活支援の情報を得るくらいでしょうか。気をつけてほしいのは、スマホのカメラで被害状況を撮影すること。巻き込まれて死ぬ確率が上がります

——なぜ?

高荷さん:海外での銃撃事件では、スマホでその様子を撮影する人が打たれてしまう事例が少なくありません。爆発音や悲鳴が聞こえたら、とにかく走って逃げてください。

——最後の質問です。「初心者がまず持つべき防災ガジェット」は何ですか。

高荷さん:とりあえず……

・防災アプリをインストールしたスマホ

・乾電池式のモバイルバッテリー

・100円ショップのライト

・ラジオ

ライトは100円ショップにある親指サイズのもので十分です。明かりがないと、非常時に何もできなくなるので。小さければ、 避難の際は邪魔になりませんから。

——それくらいなら用意できそうですね!

高荷さん:全て単三電池で動くものに統一すると、管理が楽になるのでオススメです。


いつも何気なく手元にあるスマホが、いざという時に命を守ってくれる。少なくともアプリは「荷物にならない0円の防災グッズ」なので、まずはこれをインストールしておくのが、防災準備の第一歩になりそうです。

大規模災害時、「自分たちでしのぐ」のが原則の3日間も、防災ガジェットでなるべく快適に生き抜いてやりましょう。

くれぐれも……銃撃戦の様子をカメラで撮影して、命を落とすことだけはないように。

(なおこのあと、ライターと編集の合計3人全員が乾電池式充電器を購入した)

取材・文:辰井裕紀 イラスト・アイキャッチ:小峰浩美 編集:本田・木崎/なるモ、中込有紀/ノオト 写真協力:高荷智也

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