いつの間にかごく身近なものになってきた「生成AI(Generative AI)」。2024年6月、ビッグテックであるAppleが生成AIをスマホなどに導入すると発表(参考:NHK)したように、各社で生成AI導入の波が押し寄せています。
とはいえ、生成AI自体の活用方法は多岐に渡り、今後も目まぐるしく進化していくはず。スマホ導入により、さらに身近になる生成AIで、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。今回はスマホ×生成AIの最新トレンドから活用方法、今後の展望までご紹介します。
いまさら聞けない?「生成AI」とは
そもそも生成AIとは、人工知能の一分野であり、テキスト、画像、音声、動画などの新たなコンテンツを自動的に生成する技術を指します。この技術は、ディープラーニングや機械学習の手法を用いて、大量のデータからパターンや特徴を学習し、それを基に新しいデータを創り出すことが特長です。
従来のAIがデータの分類や予測といった既存情報の処理を主な目的としていたのに対し、生成AIは新たな情報やコンテンツを生み出す点で大きく異なります。例えば文章作成において、生成AIは膨大なテキストデータを学習し、人間が書いたような自然な文章を作成する能力を発揮できます。今までAIでは難しいとされてきたクリエイティブな分野やビジネスシーンなど、多岐にわたる領域で革新的な活用が期待されています。
なぜスマホに生成AIを導入するのか。従来のAI機能との違いは?
従来のAI機能である「Siri」や「Google Assistant」は、主に音声認識や情報検索といった限定的な役割を担っていました。しかし生成AIはこれらとは異なり、ユーザーの入力に基づいて新たなコンテンツやサービスを創出する能力を持っています。
例えば生成AIなら、大切な人に送るメールの文章から画像を生成したり、ユーザーの好みに合わせた音楽や動画を作成することも可能です。こういった高度なパーソナライズ機能により、スマホは単なる電話機、情報端末という扱いから、ユーザーの創造性やニーズに応じたパートナーへとさらなる進化を遂げるのです。
またクラウド等に接続せずにデバイス上でAI処理を行う「オンデバイスAI」の普及により、プライバシー保護やリアルタイム処理が可能となるため、生成AIの導入によりスマホの信頼性と利便性が一層高まるといってもいいでしょう。
Apple、Google、Samsung。主要スマホメーカー各社の生成AI戦略
これからのスマホの未来を大きく左右するであろう生成AIですが、群雄割拠の主要スマホメーカー、特に日本でも人気の高い「Apple」「Google」「Samsung」は、現在どのように生成AIの導入を進めているのでしょうか。各社の生成AIの取り組みと、スマホにおける具体的な機能を見てみましょう。
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Apple Intelligence/Apple

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2024年、Appleが満を辞して発表した「Apple Intelligence」。iPhone(15 Pro以降)だけでなく、Mac(MシリーズチップもしくはA17 Pro 搭載モデル)やiPad(M シリーズチップ搭載モデル)など、比較的最新のApple製品で使用できます。
長いメールやメモを要約するのはもちろんのこと、文法チェックや文章の書き直し提案など、ビジネスの場面で使えそうな機能が搭載されています。メールの内容に応じたAIの提案を受け、送信先に合わせた文体に変更すれば、立派なビジネスメールの出来上がり。カジュアルにもフォーマルにも対応可能です。
オリジナル画像や絵文字の生成、写真・動画の編集機能も魅力的ですが、特に嬉しいのが写真の検索機能。いつごろ撮ったかも思い出せないけど見返したい画像を探したいなら、「白い大きな犬が雪の中を走り回っている」といったように、具体的に口語体ベースでも検索ができます。さらに動画も特定の場面をピンポイントで検索可能とのこと。
MacやiPadなどとのシームレスな連携も非常に便利なので、スマホ以外もApple製品を使用しているユーザーであれば、ぜひ活用したい機能です。
主な機能
書き換え・校正・要約機能:メールやメッセージ、メモなどのテキストを簡単に改訂、校正、要約
Siriの強化:より自然で柔軟な対話が可能となり、会話の文脈を理解して適切な応答ができるように。またChatGPTとの連携により、複雑な質問にも対応
Clean Upツール:写真から不要な要素を簡単に削除できる「Clean Up」機能が追加
Image PlaygroundとGenmoji:キーワードを入力するだけでさまざまな画像や絵文字を生成
通知とメールの要約:重要な情報を優先的に表示する通知要約、長文のメールを短くまとめる機能を追加
Gemini/Google

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Googleが2023年12月に開発した生成AIモデル「Gemini」ですが、その最大の強みはGoogle検索エンジンと統合されていること。最新の情報をリアルタイムで取得・処理できるため、ほかの生成AIモデルと比べてより新鮮かつ正確な情報を得ることができます。
そしてこのGeminiを標準搭載しているのが、「Pixel 9」シリーズです、「OK Google」と話しかけるだけで、GmailやGoogleドライブ、マップ、YouTubeなどと連携し、必要な情報を簡単に取得できます。Pixelで活用するGeminiは、いわば専用の秘書。
慌ただしい出張の朝、きょうのフライトって何時のどの便だっけ!?とメールボックスを漁る必要はなく、コーヒーでも飲みながら「OK Google、Gmailからきょうのフライトの詳細を読み上げて」というだけで解決です。
このほかにもラグの少ない通訳機能や、写真に写った不要なものを消し去る消しゴムマジックなど、あったら便利な機能がそろっています。
主な機能
AIアシスタント機能:電源ボタンの長押しや音声操作でGeminiを起動し、チャット形式で質問や指示を行う
画面内容に基づく情報提供:画面上のコンテンツ(サイトや写真など)の要約や詳細情報の提供
画像認識とレシピ提案:食材の写真を撮影して「この材料でできる料理を教えて」とGeminiに尋ねると、適切なレシピが提案される
文章の要約と生成:長文の記事やメールの要約、指定したトピックに関する文章を生成
リアルタイム翻訳:会話やテキストのリアルタイム翻訳
画像生成:テキストの指示に基づいて画像を生成する「Pixel Studio」アプリを利用しコンテンツ作成を支援
写真編集機能:「Magic Editor」を使用し、テキストプロンプトに基づく高度な写真編集を行う
グループ写真の合成:「Add Me」機能により、複数の写真を組み合わせてグループ写真を作成
通話内容の要約:「Call Notes」機能を使用して通話内容を要約し、後で参照できるようにする
Galaxy AI/Samsung

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iPhoneキラーとも呼ばれるSamsungのSシリーズ。なかでも「Galaxy S24」は独自の「Galaxy AI」を全面的に採用しています。これにより通話中のリアルタイム通訳や自動文字起こし、翻訳、要約など、基本機能が大幅にアップデート。写真の角度補正や動画のスローモーション再生といったユーザーのクリエイティビティをサポートする機能も搭載されています。
特にリアルタイム通訳は13カ国もの言語に対応しており、すべてデバイス上で処理されるため、プライバシー保護もばっちり。もちろん電話先の相手がGalaxy以外の端末でも問題ありません。これからのグローバル社会、海外の方とのやり取りが増えそうなビジネスパーソンにとって強い味方となりそうです。
ちなみに、Galaxy AIのモデルとなっているのはGoogleの開発した「Gemini」。ただしさまざまなAIを適切に組み合わせ、適切な処理を行う実装はSamsungが独自で行っているため、Google Pixelとは異なる機能となっています。
主な機能
生成型写真編集:写真内のオブジェクトのサイズ変更、削除、再配置や、AIによる背景の自動補完、画像拡張や角度調整時の自然な背景生成など
AI音声翻訳(リスニングモード):リアルタイムで多言語の音声を翻訳
サークル・トゥ・サーチ:画面上の任意のオブジェクトを指で囲むことで関連情報を検索
チャットアシスト:メッセージやメールの作成時にテキストを希望するトーンに自動変換
ノートアシスト:長時間の会議や講義の録音をテキストに変換し、要約やハイライトを自動生成
PDFオーバーレイ翻訳:PDFドキュメント内のテキストや画像、グラフを翻訳し、元のレイアウトを保持したまま表示
スケッチ・トゥ・イメージ:簡単なスケッチを描くだけで高品質な画像に変換できる
生成AI技術の進化と今後期待される新機能
近年急速に進化している生成AI。特にGeminiをはじめとした、テキスト、画像、音声、動画、コードなどを統合的に処理できるマルチモーダルAIの登場が注目されていますが、今後はスマホでのAI活用において、どのような機能の追加が考えられるのでしょうか。
健康モニタリングと異常検知
離れた場所に暮らす子どもや両親、パートナーなど、大切な人の健康はいつでも気になるものですし、自身の健康もしっかり管理したいはず。
スマホのカメラやマイク、加速度センサーなどを活用し、ユーザーの動作や声の変化、日々の活動量を継続的に自動でモニタリングすれば、マルチモーダルAIがデータを総合的・多角的に分析し、健康状態の変化や異常を早期に検知することも可能です。
スマホひとつで本人が気付かぬ微細な兆候を捉え、適切なアドバイスを提案したり、家族や医療に繋ぐ手助けをしてくれるはずです。
リモート介護の視点では、家の様子を確認できる「見守りカメラ」や、電気ポットの使用状況をメールで通知してくれる「見守りポット(象印)」などの便利なサービスがありますが、スマホの健康モニタリングを介護サービスと連携すれば、より家族が安心できる環境を構築できそうです。
対話型AIによるメンタルケアと孤独感の軽減
機械的でない適切な会話ができる生成AIであれば、スマホ上の対話型AIとして、ユーザーとのコミュニケーションを行うことができます。
日常的な会話を通じてメンタルヘルスをサポートしたり、会話内容からストレスや不安の兆候を検出し、必要に応じて専門機関への相談を促すなどの対応も可能です。
リアルタイム翻訳の応用で世界と繋がる
AIの高速処理能力の向上により、リアルタイムでの映像合成や文章対話が可能となってきています。今後より処理速度が上がれば、それこそ首脳会談のように大勢の参加者が集まり、それぞれ違う言語を話す大規模な会議でも、スマホひとつあればできるかもしれません。
ビジネスの場においては活躍の場が大きく広がり、クリエイティブ面では言語も年齢もすべてを飛び越えたコラボレーションが巻き起こり、新たな音楽や映画が生まれることもあり得ます。
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個人の理解度に合わせた教育
日本でも大学のオンライン授業やオンライン学習など、スマホやタブレット、PCを活用した教育の場が増えています。例えばその授業中、AIが生徒の表情や声のトーンを分析し、理解度をリアルタイムで把握して適切なフィードバックを送れば、個人の進度に合わせた質の良い学習体験が生まれるはずです。
実際にコノカミノルタジャパン株式会社では、自治体や学校が保有する学力調査データやドリルの取り組み状況などを組み合わせたマルチモーダルAI機能を用いることで、子どもたちの進度に合わせて対話型で学習を進められる教育データ活用基盤の開発を進めています。(参考:コニカミノルタジャパン株式会社)
日常生活を最高な環境に整える
すでにスマホとスマートホームデバイスを連携させることで、照明や温度の自動調整、家電の操作を行い生活環境を整えたり、家事の効率化ができます。
しかし今後はより快適に、パーソナライズ化された指示をAI自身が行ってくれるかもしれません。例えば健康データと連携し、疲労感や移動距離、位置情報を組み合わせて適温のお風呂をセット。仕事で疲れ切った日でも部屋に帰れば、最高にリフレッシュできるはずです。
生成AIが切り開くスマホの未来
スマホへの生成AIの導入は、単なる機能向上にとどまらず、私たちの生活をより便利で快適にする可能性を秘めています。Apple、Google、Samsungをはじめとする主要メーカーは、それぞれ独自のAI技術を活用し、健康管理、業務効率化、教育支援、クリエイティブ分野、さらにはグローバルなコミュニケーションの領域にまで応用を広げているのです。
今後はマルチモーダルAIによる個別最適化が進み、一人ひとりのライフスタイルに寄り添いながら、より自然なかたちでサポートしてくれる時代が訪れます。あらゆる場面での生成AIの活躍が期待されます。各社が鎬を削る生成AI、その発展をうまく活用することで、より豊かで効率的な未来を掴めるはずです。
文・イラスト:ミズサワカノン 編集:木崎・稗田/なるモ編集部