突然ですが、こちらの画像をご覧ください。
こちらはAI(人工知能)に作ってもらった、当メディア「なるモ」のイメージ画像です。
米AI開発企業Midjourneyが提供するAIプログラム「Midjourney」に、なるモのキャッチコピー「ビジネスシーンのモバイル活用を楽しく学ぼう」を英訳したテキスト(Have fun learning how to use mobile in the business scene)を打ち込んだところ、1分とたたず作ってくれました。
なぜスマホが爆発した……? という疑問はともかく、なんだかモバイルとビジネスで楽しいことが起こりそうな絵になっています。
このようにテキストを入力すると自動で画像を作ってくれるAI、通称「画像生成AI」が、2022年夏よりSNSを中心に注目を集めています。7月にMidjourney、8月に英AI企業Stability AIによる「Stable Diffusion」と、世界でもトップレベルの画像生成AIサービスが続々と一般公開されたことで「AIにこんな画像作らせてみた」という報告ツイートが続出。想像以上に完成度の高い絵が瞬時に作られるとして話題となっています。
AIに「コンピューターおばあちゃん」を描くよう頼んだら思った以上のやつができてきた。 #midjourney pic.twitter.com/PaSjawbWnE
— 仏像ピクト(butsuzopict) (@butsuzo_pict) August 5, 2022
絵描けないし、漫画の作り方も知らないけど。 midjourneyで生成した画像を漫画的に配置してみた。 よく分からんけどちょっと面白そうかもしれない…。 (これ以上は何も考えてません)#midjourney #AiArt #comic pic.twitter.com/VHYXVT73iQ
— Ryo Sogabe / Creative Video Manager of CLE (@sogachin) August 7, 2022
今はクリエイター業界を中心に盛り上がっているようですが、会議のプレゼン資料に企業ブログの挿絵――AIによる画像が今後ビジネスの場で利用されることは想像に難くありません。
その際に気にかかるのが、著作権の問題。できあがった画像を何気なく企業サイトに掲載したところ、思わぬところで著作権を侵害していて会社を巻き込む訴訟沙汰に発展、なんて事態は避けたいです。
AIが作った画像の著作権は誰のものなのか。今ならビジネスの場でどの範囲なら利用しても法律上問題ないものなのか。そもそもAIが画像を生み出す過程で他人の著作権を侵害してはいないのか。著作権に詳しい水口瑛介弁護士に伺うとともに、ビジネスシーンでの利用の可能性を探ります。
水口 瑛介(みずぐち えいすけ)さん
弁護士(東京弁護士会)。アーティファクト法律事務所代表。音楽、スポーツ、ファッション、インターネットなど主にエンターテインメント・クリエイティブ分野の案件を手掛ける。Twitter:@eisukewater
AIの「画像を学習する過程」は著作権法的に安全か
——どうも、今回の記事に画像生成AIで作った画像を使うことすら炎上に発展しないか少し怯えている者です。今日はよろしくお願いします。
水口さん:よろしくお願いします(笑)。
——まず気になっているのはそもそも「画像生成AIそのものが他者の著作権を侵害していないのか?」という点です。画像生成AIは、ネット上の画像や開発者が用意した写真といった大量のデータをAIに機械学習させています。
——この学習データには既存の著作物が含まれているわけですが、我々が使う前から画像生成AIのサービスそのものが著作権法に触れていたりしないでしょうか?
水口さん:なるほど、使う前からちょっと得体が知れなくて不安だということですね。
この仕組みについては、AIが学習するデータに他者の著作物があったとしても日本では違法ではないとされています。著作権法の第30条の4第2号に、情報解析のために著作物を使用することを例外的に許容する規定が存在するんです。
著作権法第30条の4より引用
“著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない”
“二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合”
水口さん:画像生成AIの場合、収集した画像からさまざまな情報を抽出して解析するわけですが、このような利用態様については「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない」のであれば著作物を利用してもOK、とされています(※日本の著作権法が適用されることを前提にしています)。
——この「著作物の表現を使う」って具体的にどういったことなのでしょうか?
水口さん:例えば仮にミレーの名画『落穂拾い』に著作権があったとして、これをAIが学習していた場合(※)。
水口さん:利用者が画像生成AIに「ミレーのような作風で、19世紀のフランスの農園で、3人の農婦が落ち穂を拾っている油彩画」というテキストを打ち込んだところ、AIが『落穂拾い』の農婦の箇所をそのまま切り取って画像に使ってしまったら、これは“表現”まで使っているのでまずいでしょうね。
でも実際の画像生成AIは、「ミレーのような作風」「19世紀」「フランスの農園」「3人の農婦」「落ち穂を拾っている」「油彩画」といった情報だけをもらって、無数の画像データを解析した中から該当する要素だけを抽出して絵を描くわけで、『落穂拾い』の表現をそのまま使いはしないのです。
——AIは著作物を解析していたとしても、著作者の創作した具体的な表現をそっくりそのまま使わないから大丈夫、ということなんですね。
AIが作った画像の著作権は誰のもの?
——では本題です。この画像生成AIで作った画像を、ビジネスシーンで使うのは法律上問題ないのでしょうか?
水口さん:結論から言うと、その画像生成AIの利用規約に違反しない態様であれば、商用利用しても問題ないと思います。
——え……。会議に使うスライド資料とか企業ブログに載っけたり、Tシャツにプリントアウトして販売したりしても、大丈夫なんですか?
水口さん:はい。でも、画像を自社のオリジナルアイテムとして世に出すとか、AIに描いてもらった自動車とまったく同じデザインの車を自社製品として発売するとか、AIから生まれた画像を第三者に利用されてしまうと困るような状況、つまり独占利用したい場合は注意が必要です。
——自分たち以外の人も画像を使えてしまったらいろんなビジネスが成立しなくなってしまいますもんね。そもそもAIが作った画像って、著作権は発生するのでしょうか?
水口さん:画像を独占利用するにはそれが著作物であること(著作権の対象であること)が必要になってくるので、順を追って説明しますね。
「AIが作った画像が著作物となるか否か」については議論がありまして、AIが作った画像はそもそも著作物ですらないという見解もあります。
他方で、シンプルなプロンプト(※)で作った画像についてはプロンプト入力者が著作者にはならないものの、複雑なプロンプトで作った画像になるとプロンプト入力者がその著作者になる、という見解があります。私もこれが妥当ではないかと考えています。
——プロンプト。SNSでは「呪文」と呼び親しまれているものですね。
水口さん:そもそも著作権は「思想または感情を創作的に表現したもの」に発生します。つまり、画像生成AIによって生成された画像が、「思想または感情」を「創作的に表現したもの」と言えるかが問題になります。
まず、仮に画像がAIの力だけで作成されていたとすると、今のところはAIは思想または感情を持たないわけですからこれに該当せず、著作権は発生しません。
しかしMidjourneyやStable Diffusionのようにプロンプトを入力して生成する場合、AIの力だけではなく、プロンプトを考える行為に人間の意思=思想または感情が介入しているため、この点は肯定できるでしょう。
次に、創作的に表現したか否かですが、これは芸術性とか独創性といった高度なものが要求されるわけではなく、何らかの個性が現れていれば肯定されます。
ありふれたプロンプトの場合には個性が現れているとは言えませんが、複数のワードを組み合わせた長く複雑なプロンプトを入力した場合には個性が現れているといえ、その結果として出力された画像に著作権が発生し、プロンプトの入力者が著作者になるでしょう。
——なるほど。
水口さん:ではどんなプロンプトだと著作権が発生するのか、3つの具体例で考えてみましょう。
例えば「Japan」とだけ入力した場合。ありふれた1つのワードからなる極めてシンプルなプロンプトですから、これでは個性は認められず、著作権は発生しないと思います。
——誰のものでもない画像ということになるわけですね。
水口さん:そうです。他方で、プロンプトの単語が多数に及んだり、個性的な単語から構成されていると著作権が発生する可能性が高くなっていきます。
というわけで2つ目に、「futuristic, Japan made, huge, spacecraft(訳:未来的で、日本製で、巨大な、宇宙船)」というプロンプトで画像を作ってみました。しかしこれでもまだ、単語の一般性や量からちょっと厳しいように思います。
水口さん:では最後、「Japan made, Cassette tape player, it can also be used for listen to vinyl records, it has a touchscreen, size that can be placed on a desk, it can be recharged by sunlight, designed to look like something from a Christopher Nolan movie, faded or decadent-looking finish, based on navy blue, photorealistic(訳:日本製、カセットプレーヤー、レコードも聴くことができる、タッチスクリーンがある、机に置けるサイズ、太陽光で充電できる、クリストファー・ノーランの映画に出てきそうなデザインである、色あせたり退廃的な加工がされている、ネイビーブルーを基調としている、写真のような現実感がある)」と入力した場合。
ここまで長くて複雑なプロンプトになるとイラストに著作権が認められ、私が著作権者になるのではないかと思います。
——確かにここまで細かいプロンプトは、被りようがない……。
水口さん:画像を独占利用したい場合には、前提として画像の著作権が自分にある必要があります。そこで、3つ目の例のように創作的に表現したものと認められるであろうプロンプトを考案して入力することが、まず重要です。
もっとも、画像生成AIサービス側が自由に画像を利用できるような利用規約になっている場合があります(※2023年3月22日時点、Midjouneyはそのようになっている)。このようなサービスを利用する場合には画像の独占利用はできないことになるので注意が必要です。
安心して独占的な利用をしたい場合は、AIが出力した画像をそのまま使用するのではなく、できた画像をインスピレーションソースにして別のデザインを考えたり、その画像に加筆修正したりして使用してみるといいと思います。
——もし画像を独占しなくても(第三者が使っても)問題ないのであれば、プロンプトの創作性なんて気にせずいろんなビジネスシーンで使って大丈夫なんでしょうか。
水口さん:はい。ただし商用利用については、画像生成AIのサービスの利用規約に則る必要があります。
例えばStable Diffusionの場合は無料プランでも商用利用しても大丈夫のようですが、Midjouneyなら有料プランに登録しないと商用利用できない、さらに大会社の事業のために使う場合には法人メンバーシッププランを購入する必要がある、といった規定があります。
このようにサービスによって商用利用の条件が異なるので、利用規約を確認して適切なプランを選択するようにしましょう。
うっかり既存の著作物と同じ画像をAIが作ってしまったら?
——もしできあがった画像が既存の著作物とすごく似たものだった場合、どうなるんでしょうか。
水口さん:確かに、似たような画像が出てくることはあると思います。そうしたものが著作権侵害になるには、3つの要件が必要なんです。
1つ目は、両者が似ているかどうかという「類似性」。2つ目は、既存の著作物があることをわかった上で、その著作物に依拠して創作したかどうかという「依拠性」。3つ目は、似てしまう事態を避けることができたのにあえて避けなかった「故意又は過失」です。
「類似性」と「依拠性」について話すと長くなってしまうので、今回はこれらの要件を満たしてしまう可能性があるケースだとして説明します。
AIで作った画像を商用利用して、その際に既存の著作物に似せる意図が全くなかったのに、後から全く知らない著作物とそっくりだったことがわかり、その著作者から訴えられてしまった場合。「故意又は過失」を認めることはなかなかハードルが高いでしょうね。なので著作権侵害で損害賠償を支払わなければならないことになる可能性は低いのではないかと思います。
——ほっ、よかった。
水口さん:一方、あまり世間に知られていないけどお気に入りのキャラクターがあったとして、「勝手に商品に使っちゃえ」とそのキャラクターに似せるようにAIに仕向けて画像を作り、商用利用した場合。たとえ画像を作ったのがAIだからとはいえ、わかっててやらせているので故意又は過失が認められて著作権侵害になる可能性が出てきます。
既存の著作物を知らず、知らなかったことに過失がなければ著作権侵害にならない。そっくりなものがあるとわかった上で使ったら著作権侵害になりうる。そういう一般的な話なので、気をつけることはAIを使う場合でもあまり変わらない気もします。
出力されたイラストを使用する前に、そっくりのものがないかについて一般的な調査をして確認する必要があるということですね。
——では画像に、たまたま実在する人や誰もが知るキャラクターが出てきてしまった場合はどうでしょうか?
水口さん:実在する人の顔とそっくりの画像が生まれてしまった場合は、それを知った上でそのまま使うと肖像権の侵害になる可能性があります。キャラクターの場合は著作権や商標権の侵害になる可能性があるでしょう。これも先ほどと同じく画像を作ったのがAIだったとしても、利用者に故意又は過失があるかという話になりますね。
AIでできた画像が実在する人やキャラクターとそっくりでないか確認し、もしそのようなものが存在する場合には商用利用しないと注意していれば大丈夫だと思います。
——最後になりますが、画像生成AIはクリエイターの仕事を奪いかねない、という議論もネット上では見かけます。一般のビジネスパーソンに向けて、画像生成AIを利用するにあたって、法律面だけでなくモラルの面でも、何か気をつけておくべきことはありますか?
水口さん:私としては、画像生成AIなどの新技術は便利ですから、どんどん使っていった方がいいと思っているんです。
人間には、今のところはAIにはできない「知的な営み」ができますよね。AIでもできる作業はAIに任せて、浮いた時間をそうした作業に費やした方がいいんじゃないかと。例えばAIが作った画像には想像力をかき立てられるものも多いので、これにインスピレーションを受けてもっといい絵やデザインを作ってみよう、といった方向性です。
音楽生成AIにしてもいろいろとありますが、現在存在するものだと、私は全く心を揺さぶられないんですよね。人の心を揺さぶるようなものを作る領域には、AIはまだまだ到達できていないように感じます。人間が作りたい音楽を作るための道具としてAIを用いるのが良いのではないかと思います。
ですので、AIを使ったら法律的に危ないのでは、といった視点も大事ですが、むしろこれを使ってクリエイターがより良いものを生み出していけるように議論が進み、法律が整備されることの方が大事だと思っています。
——画像生成AIのみならず、文章生成AIもどんどん進歩している今、記事を作る身としても大変背筋の伸びる話でした。ありがとうございました!
取材・文・写真:黒木貴啓/ノオト アイキャッチ:サンノ 編集:本田・木崎/なるモ編集部