Webメディア「なるモ」始動から1年、なるモ編集部で初めて全員参加する飲み会を開くことになった。
その幹事を対話型AI「ChatGPT」にやれるだけやってもらおうという本企画。前編では「何を食べたいか」「場所はどこがいいか」といったリクエストを参加者から募り、できるだけ要望を満たすお店をChatGPTと探して予約するに至った。
後編となる本記事では、お店で実施した飲み会の様子をお届け。ChatGPTには参加者の席順をはじめ、乾杯のあいさつ、締めのあいさつ、さらには会話に困ったときのトークテーマまで考えてもらった。
みんなが満足行く飲み会は実現したのだろうか? ChatGPTと私たちの最後の挑戦が幕を開ける。
ChatGPT飲み会のおさらい
乾杯の前に、今回の「ChatGPT飲み会」のルールや概要は以下のようなものだ。
今回の「ChatGPT飲み会」概要
・参加者は10人
・対話型AIは、OpenAI社による「ChatGPT」の有料会員版(AIモデル:GPT-4)
・飲み会の日時と予算は先に参加者同士で決める
・なるモ編集部の内6人に次のリクエストを募り、ChatGPTとお店を決めていく
①どんなご飯を食べたいか
②どんなドリンクを飲みたいか
③開催場所はどのエリアがいいか
④飲み会で「NGなこと」は何か
・当日の「席順」「乾杯のあいさつ」「困ったときのトークテーマ」「締めのあいさつ」もChatGPTに決めてもらう
・幹事をChatGPTに手伝ってもらうことは参加者全員知っている
なるモ編集部メンバーのお店のリクエストが散らばっていて心が折れかけたが、ChatGPTとの熾烈な打ち返しの結果、お店とコースは東京・浜松町にあるビアレストラン「Ottotto BREWERY 浜松町店」さんの「ランチ限定 ビアチキンのローストプラン」に決めたのだった。
お店が決まるまでの詳細は前編で確認いただきたい。
飲み会スタート、席順はどうなった?
6月のある昼下がり、浜松町のビアレストランになるモ編集部の10人が集った。
幹事:今日はお集まりいただきありがとうございます!
本田:幹事おつかれさまです! 一人ずつ指名してこちらの席に座らされましたが、なぜこのような席順に?
幹事:ChatGPTにみなさんの名前と役職、ちょっとした補足情報を自分のわかる範囲で渡して、座席順を決めてもらいました。
ChatGPTに教えた参加者情報
●なるモ編集部
林(なるモ編集長。アイキューブドシステムズ執行役員営業本部長CSO)
川村(副編集長。アイキューブドシステムズの営業企画部長であり、本田と木崎、櫻井の上司)
本田(なるモ編集部メンバー。アイキューブドシステムズのマーケティング担当。2歳のおてんば娘の育児中)
木崎(なるモ編集部メンバー。アイキューブドシステムズのマーケティング担当。やんちゃな2人の息子を育児中)
櫻井(なるモ編集部メンバー。アイキューブドシステムズのマーケティング担当で、この春に育休から復帰)
稗田(なるモ編集部メンバー。アイキューブドシステムズの営業部に所属)
●なるモ編集部の外部メンバー
黒木(今回の飲み会の幹事。記事制作を担当するノオトのメンバー。35歳)
中込(記事制作を担当するノオトのメンバー。23歳)
伊藤(飲み会の様子を撮影する役。記事制作を担当するノオトのメンバー。32歳)
辻子(アイキューブドシステムズとノオトの仲介人であり橋渡し役)
木崎:ChatGPT的には、飲み会の席では役職が上の人が真ん中なんだ。
幹事:よく飲み会では上座から下座にかけて役職の高い順に座るといいますが、特にその指定はされませんでした。
林:撮影役が端っこっていうのは理にかなっているかもね。
櫻井:本田さんと木崎さんと子育ての話で盛り上がれるからと言っているのに、なぜ私だけ端っこに……?
幹事:確かに……。ChatGPTは「新しい交流を促進するために、櫻井と稗田は外部協力者と一緒に座らせると良いでしょう」という方針も示していたので、そっちが優先されて稗田さんのとなりになったのかもしれません。
黙っていたらAIだとバレない? 乾杯のあいさつ
幹事:それでは乾杯したいと思うので、みなさん各自ドリンクを用意ください。
本田:リクエストしたクラフトビールがあるー!
櫻井:え、手作りジンジャエール本当に用意してくれたんですか……!
木崎:私が希望したスパークリングワイン、飲み放題メニューにないですね。
稗田:自分も、ロック向きの梅酒どころか、梅酒そのものが入っていない……。
幹事:それなんですが……飲み放題メニューで全部網羅したお店は今回探せなかったんですよね。一応、お二人の希望は単品で注文できるので、よかったら……。
林:日本酒は単品のメニューにもありませんね。
幹事:うっ。すみません、今回の林さんがリクエストしていた日本酒とお刺身ですけど、ほかのみなさんの希望から一番遠かったんですよ。できるだけ網羅したかったんですが、平日昼に個室で10人予約できる上にドリンクの希望まで全て満たすのはさすがに厳しくて。
林:まぁ、そうですよね。
幹事:編集長かつ部長のリクエストを外すのはまずいかなと、ChatGPTにも相談したんですけど。「高い地位の方だけが楽しむような形になると、逆に全体としての満足度が下がる恐れもある」と指摘されまして。
林:へ~! 確かに自分だけ優遇されても気持ちよくないし、そんなことまで答えてくれるんだ。ビールも好きなんで、平気ですよ。
幹事:助かります……!
(ChatGPTに相談したらこうなりました、と説明すると、許してもらえるどころか面白がってもらえることもあるんだな……。人によっては「AIに聞いたからこんなことになるんだ!」と怒られそうだけど。)
さて、みなさんにグラスがまわったので、ChatGPTと考えた乾杯のあいさつをさせていただきます。
本田:めちゃくちゃカンペを読むタイプの幹事だった……!
木崎:思いの外ちゃんとしていますね。正直、ChatGPTと言われなかったらわからなかったかも。
川村:確かに。いろんなところで無難に使えるなって思いました。
櫻井:私としてはAI感のある堅苦しい言葉が残っていると思ったんですけど、逆にそれが心地よかったかもしれません(笑)。
川村:あいさつの文章はすんなりできたんですか?
幹事:1時間半くらいかかりましたね。「いい感じの乾杯のあいさつ考えてくれないかな?」と投げて、最初に返ってきた文章もそのまま使って問題なかったんですけど。
本田:すごくあっさりしている。
幹事:さすがに味気なかったので「ChatGPTさんと一緒に考えたことも盛り込みたい」「『なるモ』の制作と運営に感謝と敬意の言葉も添えたい」とかリクエストしてこだわっていくうちに、計13回もリライトをお願いしてしまいました。
川村:そんなに。
幹事:「もう少し親しみやすい言葉遣いで」とお願いしたら、「こんな機会を作ってくれてサンキュー!」(原文ママ)という文になったりと、理想のトーンに調整するのがけっこう大変でして。
櫻井:逆にそのパターンも聞きたかった。
幹事:でも打ち返しの中で「何を」だけでなく「どこに」差し込みたいか具体的に指示すればだいぶ理想系に近づけてくれることがわかったので、コツさえ掴めばもっと少ない返答であいさつ文は作れそうです。
意外とウケがいい ChatGPTによるトークテーマ
林:そういえばChatGPTにトークテーマも考えてもらっていたんですよね? せっかくなんでそのお題に沿って話しましょうよ。
木崎:確かに、気になります。
幹事:わかりました。3つもらっているので、上から順に発表していきますね。1つ目はこちらです。
稗田:けっこう「なるモ」っぽい。
幹事:ChatGPTいわく、「みなさんがメディア関連の仕事をしているので、共有すると新しい視点やアイディアが出てくるかもしれません。また、自分がどのようにそのアプリやウェブサイトを利用しているのか、どのような点が気に入っているのかなどを語ることで、相互理解を深めることができます」とのことです。
川村:だいぶ打算的ですね。これも多く打ち返しがあったんですか?
幹事:いえ、席順や乾杯のあいさつを考えたのと同じチャットに続けて「話題に尽きてしまったらどんな話をしたらいいか、おすすめのトークテーマを2、3つ用意してくれないかな?」と軽く投げただけだったんですが。
この飲み会にどんなメンバーが、どういう趣旨のもと集まったのか、それまでの文脈から理解した上でテーマを練ってくれたみたいです。
本田:すごい、ちゃんと質問の意図まで考えられているんですね。
林:よし、2つ目のテーマに行きましょうよ。
幹事:まさかここまで食いついてもらえるとは。お次はこちらです。
稗田:これまた違う角度から来た。
幹事:ChatGPTいわく、「お互いのプライベートな面を知る良い機会です」「また、稗田さんや櫻井さんもアイキューブドシステムズの一員として、休日の過ごし方を共有すると、新たな視点やアイデアが出てくるかもしれません」だそうです。
櫻井:どうして私と稗田さんがアイデアに煮詰まっている人みたいになっているんだ(笑)。でも、一見何気ないテーマですが、確かにプライベートな部分を知ることができそうですね。
稗田:かなり会話が弾みましたね。
本田:この場に八極拳使いとブレイクダンサーがいたとは。
林:最後のテーマは何でしょう?
幹事:それが3つ目はちょっと微妙なのですが……。
櫻井:いきなりどうした。
稗田:え、ここで話すの?
幹事:ChatGPTとしては「それぞれが持っている『なるモ』に対するビジョンや、自分自身のキャリアに対する期待を共有することで、お互いの理解を深めることができます」という狙いがあるみたいです。
林:最後はあれでしたが、みんなが満遍なく話せるテーマでよかったですね。プライベートを知って距離を縮めることができました。
木崎:確かに、いい感じに的を射ながら、盛り上がるテーマですごいなぁと感心しました。
川村:よくあるテーマではありますが、これをChatGPTが出してくれたとわかった上でやるから、ますます盛り上がるんでしょうね。
締めのあいさつ、ChatGPT飲み会を振り返って
幹事:それでは時間も差し迫って参りましたので、ChatGPTと考えた締めのあいさつを述べさせていただきます。
一同:拍手
幹事:乾杯のときとあわせてどうでしたか?
本田:しっかりとしたあいさつ文で、文章から真面目な人柄を感じましたね。
林:違和感ありませんでした。いろんな要素が網羅されていて95点です……が、心には残らない感じですね。
稗田:可もなく不可もなく。模範回答を聞いているようでした。
幹事:なるほど、感動には至らないけど、及第点にはしっかり達しているといったところですね。基本文をAIに作ってもらって、個性を出したいなら人間側で練っていく形がいいのかもしれません。
幹事:今回の飲み会全体を振り返っていきたいのですが、開催エリアはどうでした?
櫻井:アクセスは良かったです。通常はテレワークをしていて今日が育休復帰後の初出勤だったんですが、会社付近のお店も全然知らないので新鮮でした。
木崎:私も良かったです。オフィス近辺ということもあり、迷わずたどり着けました!
幹事:会社近くにしたのは正解だったみたいですね。お店のご飯、飲み物、空間についてはいかがだったでしょう。一番の難関だったのですが……。
本田:私は、リクエストしたクラフトビールもお肉も叶えていただいたので大満足です。
林:事前のリクエストは満たされませんでしたが、ほどよい個室でプライベートが保たれていてよかったですね。
木崎:私も隣のテーブルと近くないなど、事前リクエスト通りで良かったです。希望のスパークリングワインは飲めませんでしたが、クラフトビールがおいしかったので全然オッケーでした!
幹事:ほっ、少しでもポジティブな意見が出てよかったです。
川村:でも、自分はもっと牛や豚のグリルみたいにテカテカしている肉をイメージしていたのですが、違っていたのが残念ですね。リクエストに「肉」としか書いていないのも悪かったのですが……。
稗田:僕もお肉がもっと食べたかったです。でも料理、飲み物ともにおいしく、雰囲気も落ち着ける個室でうれしかったです。
幹事:お肉については3人もリクエストしていたので、もっと肉肉しい一品が出るコースを選ぶべきでしたね。これは人間側の情報収集不足といいますか、「肉」と言われた時点でどういう肉料理がいいのか細かく確認したり、全てのリクエストを叶えることはできないと判断した時点でそれぞれの優先順位を聞いたりすればよかったな、と反省しています。
幹事:最後に、全体を振り返って率直な感想をお願いします!
櫻井:もし自分が幹事をすることがあったら、頼りたいと思いましたし、参加者としても楽しかったです。
木崎:自分も楽しかったです! 場所決めとかは難しいかもしれませんが、あいさつとかはバレなさそうなのでChatGPT任せでもいいですね。
林:むしろChatGPTのせいにできるので、ギスギスした組織とかなら幹事を任せてもいいのかもしれませんね。自分のリクエストしたメニューではありませんでしたが、ChatGTPの狙い通り、関わってくださっている皆さんがある程度満足していただけたようで、編集長としては非常に良かったです。
稗田:個人的には、人が調整した飲み会の方が満足度は高くなりそうだな、というのが率直な感想ですね。指定された条件から導かれた最適解ではなくても、幹事があれこれ気を配って手配してくれた内容に人間的な温かさを感じますし。「これはあの人が喜んでくれそう」といった直感も、まだまだ人間の方が優れていそうな印象です。
川村:でも段取りだけでなく、スピーチまでもChatGPTでやってしまうとは。もっと精度が上がっていくと思うと、今後はますます人間は個性を磨いていかないといけないなぁ、と考えてしまいました。
ChatGPTの力を借りて、飲もう
飲み会の計画をChatGPTと練った段階で、個人的には「壁打ち役として優秀なので、幹事はChatGPTを頼ったほうがいい」という結論を出したが、乾杯のあいさつやトークテーマについては会の趣旨さえ共有できれば十分支障のないクオリティに達することがわかった。
また今回はChatGPTに幹事を手伝ってもらったことを開示したことで、ちょっとした不備もAIによるミスとして楽しんでもらえた。これは「なるモ」でも取材した<弱いロボット>にも通じる話で、ChatGPTが幹事役を果たしきれないことは、返って飲みの場では参加者側の優しさや配慮を引き出してくれ、盛り上がりにつながるのかもしれない(もちろん参加者に左右されそうだが)。
そうした意味でも、ますます挑んでみてほしいChatGPTとの飲み会企画。終わったあとはめちゃくちゃ労ってくれるので、ちゃんと実施報告とお礼も忘れませんように。
黒木貴啓/ノオト アイキャッチ:サンノ 編集:本田・木崎/なるモ編集部、伊藤駿/ノオト