オフィスの雑談、どうして必要なんだっけ? 「誰かに促されたら雑談じゃない」その難しさ

コロナによるリモートワークで消えたもの、そして多くの人が消えて初めて必要性に気づいたもの……。その代表的なひとつが、「雑談」ではないでしょうか。

職場で同僚や上司や部下とかわす何気ない会話や情報交換は、無駄なものだと思われていましたが、リフレッシュや同僚のコンディション把握に役立っていたらしい。しかし、オンラインでの作業では、そういった雑談もままなりません。

では、雑談には具体的にどのような効果があり、そしてそういった雑談はどうすれば現在の状況下でも生み出せるのでしょうか。

事業創造コンサルタント・産業カウンセラーで、ビジネスゲームの開発や人材研修を行っている株式会社遭遇設計の代表である広瀬眞之介さんにお話を伺い、雑談の持つ効果とその難しさについて語っていただきました。

広瀬 眞之介さん

株式会社遭遇設計、代表取締役。ゲーム作家、講師、事業創造コンサルタント、産業カウンセラー、コミュニティマネージャー。

株式会社遭遇設計では、オリジナルのビジネスゲームやツールの開発、それを用いた企業研修を行っている。手掛けるビジネスゲームには、メンタルヘルスとサポートを学ぶ「ウツ会議」など。

広瀬眞之介さん

リモート下で発覚した「雑談がないこと」の弊害

──そもそも、ビジネス的な観点における「雑談」って、どのように定義するべきなのでしょう?

広瀬さん:これは僕が考えたわけではないのですが、法政大学の長岡(健)教授の言葉をお借りすると、「雑談は内向きかつ、“非公式な”コミュニケーション」と定義されています。

会社の中でアナウンスがあって、日程や議題を決めて行うものが「公式な」コミュニケーション。逆に「非公式な」コミュニケーションは、日程や議題を決めず、その場で偶発的にはじまるものです。例えば、廊下ですれ違った時に「あれってどうなりました?」とか「最近、お子さんはどうですか?」というような会話ですね。

──ということは、内容については、特に定義されているわけではないんですね。

広瀬さん:内容に関しては千差万別なんで、自分としては「こういうことを話さなくてはならない」というものはないと思っています。仕事に関係あっても、なくてもいい。ただ、「雑談が行われていないと、いろいろな面で業務が円滑に進まないことがある」と体感的している人がいるということは、調査で明らかになっています。

──例えば、どのような面で支障が出るのでしょう。

広瀬さん:わかりやすいところだと、業務上必要なコミュニケーションが十分に行われず、その結果情報共有がうまくいかなかったり。他にもエンゲージメント(※)が下がったり、あとは離職が増えたとか、ストレスが溜まって病んじゃったというメンタルヘルス的な話もあります。

他には、マネジメントが難しくなったという相談も多いですね。オフィスで隣の席に座っていたら、部下が困っていたら、その様子からなんとなくわかったものですが、それができなくなって、サポートするのも仕事をせっつくのもやりづらいと。問題に感じている人が多いのは事実ですね。

※会社と従業員の間に発生する信頼関係や、企業に対する愛着のこと

──確かに、コミュニケーション面での支障は大きそうです。

広瀬さん:あと、コミュニケーションの問題で大きいのが、「雑談と相談はセットだった」という点です。例えば「上司に相談したいことがあるけど、チャットだと返事が返ってくるのが遅い」みたいな困りごとでも、タバコ部屋で頻繁に会うのであれば「タバコのついでに聞けばいいか」となりますよね。

また、普段から気軽に雑談でコミュニケーションをとっていれば、雑談の延長で業務の相談を持ち込みやすくなるという効果もあります。

雑談が仕事の相談をするまでのハードルを下げる?

──雑談しながら「そういえば、あのプロジェクトで……」のように話が膨らんでいく、という状態ですね。

広瀬さん:また、基本的には雑談で話をして、込み入った話になってきたら「じゃあこれは会議室で話しておこうか」「これは上司に相談しようか」ということになる……みたいなシチュエーションもあります。雑談は、しっかりした業務的な相談の一歩手前にある、クッションとして機能していたんですね。

時間を決めて会議室を借りて話をするのであれば、成果を求められたり、なんらかの結論を出したりしなければいけない。でも、その会議がイノベーションや商品開発につながるかは、ぶっちゃけわからないじゃないですか。だからそういう会話は、雑談という形をとった方がやりやすかったんですよね。

ベテラン技術の形式知化には、雑談が不可欠

──となると、新規事業のアイデアを出すような場面では雑談が必要、ということになるのでしょうか。

広瀬さん:そうですね。新しいプロジェクトの種探しとか仕事をクリエイトしようと思うと、いろいろ雑多な人たちとコミュニケーションした方がいいのは確かです。

決まった仕事を上手くなっていく「深化」の過程ではなく、新しいノウハウを探す「探索」の段階では、一般的には雑談があった方がやりやすいはずです。また、他部門と折衝したり、外部の人間と仕事をしなくてはならない立場の人も、雑談は必要かと思います。

──雑談が必要な場面としては、かなりわかりやすいですね。

広瀬さん:他には、「職人の勘」や「ベテランの経験」と呼ばれるような、仕事の暗黙知を共有する際には、教える側と教わる側との間に「共通体験」が必要とされています。そして、この暗黙知を人から人に移動させるプロセスの一部を雑談が担っているんですよね

例えば三味線を教える場合では、師匠と弟子が一緒に弾きながら、フィードバックを繰り返して修行します。この「一緒に弾く」というのが共通体験ですね。そしてフィードバックを弟子に理解させるには、師匠が持つ暗黙知を、どうにか言葉にして形式知化することが必要になりますよね。この言葉による形式知化と伝達というサイクルを回すために、雑談が必要なんです。

形式知化と伝達のサイクル

──言われてみれば、テレビで落語を見ているだけで落語家になれるなら、そんな楽な話はないですもんね。

広瀬さん:まさにその通りです。落語の演じ方のような暗黙知は、雑談を含めたコミュニケーションがないと伝達できません。

あと、メンタル回復やケアで雑談を必要としている人たちもいます。僕は産業カウンセラーもやっているんですが、「中高年なのに、会社をクビになりそう。どうやって家族との生活を維持したらいいのかわからない」という相談もあるんです。

こういう場合、そもそもシンプルに解決策を提示できるものではないですよね。そもそも解決すべき問題がどこにあるかわからないし、「会社と仕事」という価値観だけじゃなく、「それ以外にも道はあるよ」と、他の世界を見せることが解決策になったりするんです。ただ、それをやろうと思うと、相手の気持ちや状況を知るため、必然的に雑談的なコミュニケーションをせざるを得ない。うまく切り分けられない問題を扱えるコミュニケーションである雑談は、こういったケアには不可欠なんです。

オンラインで、雑談をどう成り立たせる?

──では、リモート環境下でも雑談を成り立たせるには、どのような条件が必要なんでしょうか

広瀬さん:そもそも、雑談の促進って難しいんですよね。会社から「雑談してください」と言った瞬間に公式的なコミュニケーションになってしまい、そもそも矛盾してしまいますから

──確かに。促さないとやらないが、促されて行う雑談は雑談でない。ジレンマですね……。

広瀬さん:雑談を成立させるためには「適度な距離」と「適度な暇」と「自然な理由」が必要だと思っています。僕がコワーキングスペースの運営をやっていた時には、コーヒーが入るまでちょっと時間がかかるコーヒーメーカーを置いていたんですよ。そのコーヒーを取りに来た人に、毎回話しかけに行ってました。

これだとコーヒーができあがるまでの時間という「適度な暇」と、そこで立ち話をするという「適度な距離」「自然な理由」があるわけです。

──「コーヒーができるまで立ち話」というのは、確かに自然なシチュエーションですね。

広瀬さん:これまでは飲み会や喫煙所がそういう機能を担っていたと思います。オフィス内でさらに推し進めようとするなら、社内カフェとか、立ち話用のスペースを作るということになります。リアルではそういった環境から雑談を促進できましたけど、リモートではそれがごっそりなくなってしまったんですね。

──厳しいですね……。それでも、各社何とかして社員に雑談をさせるべく、色々手を打っているところだと思います。

広瀬さん:国内の大手IT企業でも、いろいろ試行錯誤されているようですね。ただ、まだ決定版的な解決策は出ていません。例えば、REFLECTION METHOD LAB.の「チェックイン・チェックアウトカード」(※)のような仕組みも、オンラインで雑談をするための仕組みとして注目されています。会議前に引くチェックインカードと会議後に引くチェックアウトカードがあり、それぞれ状況に即した質問が書かれていて、会議の参加メンバーがそれに答える、というものですね。

これのいいところは、質問の内容をカードのせいにできるところなんです。完全に運で出た質問だから、社長や上司の意図が入っていない。いくら社長が「そんな意図はないよ」と言ったところで、社長からの質問にはやっぱり忖度しちゃうじゃないですか。

※ 対話・学習ツールの開発や、ワークショップを行う団体。「チェックイン・チェックアウトカード」は同団体が提供する「リフレクションカード」の一種にあたる

──確かに。カジュアルに「最近どう?」と聞かれても、ちょっと答えに困ることはありますよね。

広瀬さん:でも、カードに聞かれたならその忖度を無視できて、素が出やすくなる。あと、たまたま引いて出たお題だから、「全然いい感じの回答が思いつかないんで、適当に答えます!」みたいな言い訳もできる。

うちはこういった「カードを引いて質問に答える」というコミュニケーション方法をブラウザゲームにしています。「あなたの強みは?」みたいな自己紹介に関する質問が書いてあるカードをまず引いて回答し、さらに「そもそも」とか「逆に」といった接続詞を書いた「深掘りカード」をもう一枚引いて、その接続詞を使ってさらにこの質問について語ってもらう……というルールです。

ブラウザゲームの画面

▲同社開発のブラウザゲームの画面。引いたお題カード(左側)の内容について話しながら、途中で右側の「深堀りカード」を引く。深堀りカードに書いてあった「まさか」や「さらに」をつけてお題カードについての話を継続することで、普段はしない話をするようになる仕組み

──二段階の質問に答えるわけですね。

広瀬さん:自己紹介っていつも同じことを話してて、普通に話したところでどうしてもおもしろくならないじゃないですか。でも、カードのフレームワークで自分のことを話しつつ、さらに深掘りカードを使って喋ることになると、いつもと違うことを喋らざるを得ない。

ある種ワークショップ的ですが、これはゲームなのでファシリテーターがいらないんです。だから素人同士で集まっても同じようにできるし、講師やファシリテーターがいることによる権力勾配や上下関係が発生しない。この点から、僕らはゲームの方が雑談の促進には有効だと思っています。

──オンラインで雑談をするためには、ゲーム化などもうひとつ工夫やクッションが必要なわけですね。

「雑談を促す最善策」はまだまだ模索中

──雑談って、とらえどころがなくて、本当に難しいんですね。やはり会社の側は、社員同士に雑談を促す方法を考え続けたほうが良いのでしょうか?

広瀬さん:はい、その通りです。さらに言えば、イノベーションを促進したいと思っている経営者や人事サイドは、雑談についてもKPI化したほうがいいと思います。ちゃんと行われているかや、無理矢理になっていないかを定期的に調査したりする必要があるでしょう。

ただ、繰り返しになりますが、雑談する側に目標設定したりする必要はないです。というか、それをやると雑談ではなくなって、普段の業務コミュニケーションと同じになってしまう。ですので、雑談する人たちに目標設定はむしろしてはいけないんです。

──なにが最善なのか、もはやよくわからなくなってきました。

広瀬さん:その細かな違いを丁寧に考え続けられるかが、後々大きく響いてくると思います。とはいえあくまで雑談ですから。「今日は猫好きが集まってるから、みんなで猫の動画見ようぜ」とかでいいんですよ。そこから会話が発展して、「お宅の猫ちゃん、最近どうですか」とか、そういうコミュニケーションが取れればそれで充分意味はありますから

──なるほど……。本来、雑談ってそういうものですよね。

広瀬さん:大前提として、やっぱり雑談って促進するのがすごく難しいんです。オフラインだったとしても外から命令してやらせるものではないし、環境設計だって必要です。さらにオンラインだと、その環境や状況の設計がさらに難しくなる。素人がちょっと頑張ったから、それでできるようになるという簡単なものではないと思うんですよね

──今日のお話を伺って、「雑談の難しさ」がよくわかりました。

広瀬さん:「これがオンラインでの雑談の決定版」という解決策はまだ出ていないし、我々も出せていない。今後取捨選択が進む中で「鉄板だよね」という方法は出てくると思いますが、まだまだ模索段階です。今後もずっと課題であり続ける可能性もありますし、道半ばです。

だからこそ、考え続けたり、外部から学んだり、創意工夫し続けられるかどうかが、組織力を高められるかどうかの分岐点になると思います。皆さんも色々とトライした方がいいですし、先達の知見から学ぶことも多い、取り組みがいのある課題だと思っています。

取材・執筆:しげる、図版・イラスト:小峰 浩美、編集:伊藤 駿(ノオト)