「寝る前にだらだらスマホを見るのがやめられない」「ついつい延々とショート動画を見てしまって止められない」など……。やらなきゃいけないことがあるのに、スマホを開いてそのままだらだら閲覧を続けてしまうという状態に覚えがある人は少なくないはず。
かく言う筆者もそのひとり。お風呂に入らなきゃいけないのに、ついついスマホを見てしまってお風呂に入るのを先延ばしにしてしまい、結果就寝時間が遅くなる。……これはよくない!
「スマホ依存」とは違うけど、日常の中で生まれる「だらだらとスマホを触ってしまう」状態。どうしてだらだらスマホは起こるのか。また、解決する方法はあるのでしょうか。こうした「だらだらスマホ」がやめられない心理や仕組み、解決するための方法を、ネット依存症専門心理師の森山沙耶さんにうかがいました!
森山 沙耶(もりやま さや)さん
ネット・ゲーム依存の相談支援サービス「MIRA-i」所長。公認心理師、臨床心理士、社会福祉士、そして二児の母。家庭裁判所調査官としての勤務や大学病院や福祉施設での心理臨床を経て、インターネット・ゲーム依存の診断・治療等に関する研修を修了後、MIRA-iの設立に携わる。現在はネット・ゲーム依存専門心理師として、カウンセリングだけでなく講演活動も行っている。
だらだらスマホは、体からの「疲れた」サイン!
——日常生活において、「だらだらスマホを見続ける」行為はどうして起こってしまうのでしょうか。
森山さん:「だらだらスマホ」は、不快な感情や億劫な活動から逃避したい気持ちがあるときや、その後に「強制的な切り替え」がない状態で起きやすい、とされています。
典型的な例としては寝る前です。例えば日中なら、学校や仕事の予定があったりご飯を食べたりと、強制的な切り替えのきっかけがたくさんありますよね。しかし、寝る前というのはそうした切り替えになる活動がなく、なおかつ1日分のストレスを感じやすい時間帯です。
そこで手元のスマホを見ると、一時的にその不快さが緩和されたり、リラックスできたりする。その結果、就寝前のスマホがやめづらくなる……ということが起こってしまうんです。
——ストレスや不快感を解消しようと、無意識にスマホを見続けてしまっていたんですね……!
森山さん:だらだらスマホは、ストレスや疲れを訴える「体からのサイン」だと思います。
人は行動を学習していくので、自分にとってメリットがある行動はまた繰り返すようになります。つまり、「スマホを見ることで嫌なことが忘れられる」とか、「ストレスが和らいだ気がする」といったメリットを感じることで、だらだらスマホはまた繰り返されます。
森山さん:あるいはその後に億劫に感じていることが控えている場合、逃避のためにだらだらスマホを見てしまう場合もあります。私も結構やりがちなんですけど……リモートワークでなかなか仕事をはじめられなかったり、家事をやらなきゃ、入浴しなきゃいけないのにスマホをだらだら見てしまうことってありますよね。
そういう何かを億劫に感じている人にとって、だらだらスマホを見ることが逃避になっている可能性も高いです。
——だらだらスマホを見てしまう原因にいろいろパターンがあるんですね。自分は現実逃避でだらだらスマホを見がちなタイプかもしれません。
森山さん:そうやって自己理解できているのは素晴らしいですね! だらだらスマホなど、「やってしまいがちな行動が、自分にとってどういう役割をしてしているかを把握する」ことって、実はすごく大事なんです。それが理解できると、問題解決のためにどう対処するかが考えやすくなるので。
だらだらスマホを引き起こす外的要因と内的要因
——「自分自身のストレス」や「現実逃避」の他に、スマホがやめられない状態の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
森山さん:大きなものだと、「スマホそのものの機能」でしょうか。スマホの機能には「だらだら見続けてしまう」行動を引き起こすきっかけ、つまり「引き金」がたくさんあるんです。アプリのアイコンと一緒に表示される数字とか、プッシュ通知などが代表的ですね。
プッシュ通知の開封率って普通の通知よりも開封率が高いそうなのです。それぐらい引き金としては強いものなので、通知が来るとスマホを手に取っちゃう。
——プッシュ通知をきっかけにスマホを手に取り、そのままSNSを回遊して戻れなくなる……。思い当たる節があります。
森山さん:「引き金」にも内的なものと外的なものがあります。プッシュ通知など、スマホの機能によるものは外的な引き金。依存状態になるとネットを見ているときに目に入るような広告にも弱くなるということがわかっています。つまり、外的な引き金に対して過敏になってしまう、ということですね。
内的なものの例は、先ほど話ししたような疲れやストレス、スマホで楽しみたいという自分の欲求を発散させたい気持ちです。
——自分の体調やスマホの機能など、日常生活にはだらだらスマホの引き金になるものが溢れているんですね。
森山さん:応用行動分析では、ある行動の前にはその引き金となる「先行事象」があり、起こした行動の結果によって、その行動が増減する、というモデルで「人の行動」を分析しています。ある行動をとり、本人にとって望ましい結果が得られ、その行動が増えることを「強化」といいます。
つまり、先ほどお話ししたように、スマホを見た結果、ストレスが緩和されたりリラックスできたりするとその行動が「強化」され、繰り返し繰り返しやってしまうようになるんです。
——だらだらスマホをすることに、自分の体はひそかにメリットを感じていたわけですね。
森山さん:メリットといっても、だらだらスマホで得られるものはあくまでも短期的なメリットです。長期的に続けていくと悪影響が出てしまう行為であっても、短期的なメリットを優先した結果、だらだらスマホを繰り返してしまう……というのが、よくあるケースかな、と。
スマホ時間は無理に減らそうとしなくていい!
——では、だらだらスマホを防ぐにはどう心掛けたらいいでしょうか。
森山さん:他の依存症とも同じ対応策になりますが、前提として、無理やりスマホ時間を減らそうとは考えなくてもいいと思います。フラストレーションが溜まるし、うまくいかなかった時は自己嫌悪になってしまうので。ある程度は「スマホを使ってもいい」時間をとっておくようにしましょう。
ではどうすればいいかというと、特定の状況でだらだらスマホをやってしまいがちなら、逆に「スマホを触る」時間を別に設けるのがひとつ。「疲れがたまる夕方に触ってしまいがちなので、朝の時間帯にスマホを見る時間を作ろう」などですね。
「やるべきことを後回しにしてスマホを触ってしまう」場合は、やるべきことをやった後に、ごほうびの時間を作る。「この家事を終えたらスマホ見る時間を作る」とか、入浴が億劫なら「お風呂に入浴剤や好きなアロマを入れてみる」とか。すると後回しにしていたことがやりやすくなるかなと思います。
——億劫なことを楽しみにするような工夫を、自分で考えてみる感じですね。
森山さん:おっしゃる通りです。報酬を用意して、スマホを触っていた時間を、何か別のリラックスできるような行動に置き換えてみるんです。ストレッチとかアロマを焚いてみるとか、コンテンツに触れたいなら雑誌を読んだりするのもいいと思います。報酬になる行動は人それぞれ違うので、自分に合った行動を探してみるといいですね。
ごほうびを用意し、だらだらスマホを切り上げる
——とはいえ、「始まってしまっただらだらスマホを、今すぐ切り上げたい!」という時もありますよね。そういう時に何かいい方法はありますか?
森山さん:シンプルなのは、スマホの仕組みや機能で解決することです。例えばタイマーをかけるとか、スクリーンタイムでアプリの使用を制限するとか。スクリーンタイムをチェックするようにして、「今週は夜に見てる時間が減ってる!」など、いい部分を見つけて自分を褒めてあげて、自己肯定感を高めてあげるのもいいですね。
もっと前向きに取り組みたいなら、自分で自分に、「スマホをやめられた時のごほうび」を用意してあげること。スマホをやめられたらポイントを付けることにして「◯印ががいくつ溜まったら、ずっと欲しかったアレを買っていいことにする」とか、ゲーム性のあるような工夫をしてみるのも有効だと思います。
——パッとやめたい時も、自分の意志の力ではなく仕組みや方法を考えて対処していくのが基本になるんですね。
森山さん:皆さん自分の意志の力でなんとかしようとしがちですが、これは実はよくないんです。人は意志が弱い生き物なので。
そもそもですが、生活に支障が出ていないなら「スマホをだらだら見てしまうこと」に対してはあまり悪く思わなくてもいいんですよ。実際にネット依存で困っていらっしゃる方がカウンセリングに行くとなると「ネットやゲームをやめさせられるのでは」と思われるのですが、そうじゃありません。
ネット・ゲーム依存の予防と回復支援に携わる立場として伝えたいのが、「ゲームやネット=悪、ではない」ということです(※)。ネットやゲームで学べることもたくさんありますし、そうしたメリットの部分も知ってもらいたいな、と。
——だらだらスマホを見てしまったことに必要以上に罪悪感を感じる必要はないんですね。
森山さん:だらだらスマホがやめられないのは、その方の意思が弱いのではなく、環境がうまくいってないだけだと考えています。日常的に、スマホをやめることに気付けるような引き金を積極的に作って、やめられた際には自分にごほうびを設定してあげる。
自己嫌悪にならないように、環境を工夫して、意志の力に頼らずに問題解決を考えた方がうまくいくと思いますよ。
だらだらスマホは「意志が弱いから」ではない
今まで、筆者はだらだらスマホを見てしまう自分に対して、自己嫌悪を感じることもありました。ですが森山さんの話をうかがい、だらだらスマホをしてしまった時に「疲れているのかも」と考えるように。現在の自分の状況を顧みるいい機会になった気がします。
便利で生活に欠かせないスマホ。でも、いくら便利でも適切な距離感は大事ですよね。皆さんも、スマホと程よい関係でいられる工夫を考えてみてはいかがでしょうか?
文:井口エリ 図版・アイキャッチ:小峰浩美 編集:伊藤 駿/ノオト、本田・木崎/なるモ編集部