画面越しでも効果は同じ? 「オンラインもくもく会」のやり方を専門家に教わって、実践してみた

出社しないと、どうも仕事がはかどらない……。家にひとりだとダラダラしてしまうから、外で作業しようかな……。

ここ数年でリモートワークをする人が増えましたが、「自宅では集中できない」と感じる人もチラホラ。そんなリモートワーカーの中で注目が集まっているのが「オンラインもくもく会」です。作業に集中する場を提供するオンライン交流アプリなども登場し、ついついのんびりしがちなリモートワーク中でも集中力が保てると話題になっています。

そもそも「もくもく会」とは、複数人が同じ場所に集まって「黙々と」作業や勉強をする会のこと。オフラインで行なうのが主流でしたが、リモートワークが盛んになってきた今、通話ツールを使った「オンラインもくもく会」が広まってきました。

そんなもくもく会は、オンライン上でも対面と同じような効果を得られるのでしょうか?

今回は国立精神・神経医療研究センターの請園正敏先生に、その理由やおすすめの集中ノウハウを伺います。そして、その内容をもとに、アイキューブドシステムズ社内で「オンラインもくもく会」を実践してみました。

請園 正敏(うけぞの・まさとし)さん

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部 リサーチフェロー。

一人で行う場合と比べて、誰かの存在によって認知・行動に促進(または抑制)が引き起こされる社会的促進(抑制)の発生機序の解明を目指して研究している。

請園正敏さん

パフォーマンスが「促進」されるものと「抑制」されるものがある?

——もくもく会は「一人では集中できないからみんなで集まって作業する」ものですよね。では、人はなぜ一人きりだと集中できなくなってしまうのでしょうか?

請園先生:おそらく社会的促進及び抑制の影響でしょう。これは、同じ空間に「同種の他個体」、つまり「他の人間」の存在によってパフォーマンスが上がったり(促進)下がったり(抑制)することを指します。

この事象については、さまざまな研究も行われているんです。例えばフィギュアスケート選手が、個人練習では3回転ジャンプができるとしましょう。その人が自分のジャンプに自信がないと、観客に見られているなかでの本番では失敗してしまう確率が高くなり(抑制)、逆に自信があるといつも以上の完成度で3回転ができる(促進)、という現象が起こります。その人の状況や行う作業内容が、パフォーマンスに影響するのです。

フィギュアスケーターのジャンプ成功失敗のイラスト

——同種の他個体! 小学生の頃、お母さんが見える位置にいると勉強がはかどったのはそういう理由だったのか……。ちなみに他個体の属性(知らない人、知人、家族、上司など)によって抑制と促進が変わることもありますか?

請園先生:そうですね。人間の場合、「社会的インパクト理論」という、社会的インパクトが高い人に見られていると強い促進・抑制がかかるという現象があります。

——社会的インパクト、ですか?

請園先生:先ほど母親の話が出ましたが、似たような存在に上司がいます。例えば、自分を査定する直属の上司を含めたメンバーでオンラインの打ち合わせをしたとしましょう。すると部下は、「上司に見られている」という強いパワーを感じてしまいます。ちょっと厳しい上司だとその緊張感はさらに高まるでしょう。上司がカメラをオフにしていたとしても、そこに上司がいるだけで促進が起こるんです。

ただし、促進がかかりすぎるのも注意が必要。頑張りすぎるが故に、ケアレスミスが発生しやすくなります。とくに承認欲求が強い人だと自己呈示(ていじ)動機といって「頑張っている私を見て!」という方向にベクトルが向いてしまうからです。

——ほどよい促進と抑制が大切ということですね。人に見られることでパフォーマンスが上がる人と下がる人もいるということでしょうか?

請園先生:そうなんです。2つのチームに簡単なテストを受けてもらう実験で、点数にかかわらずAチームには「すごく良かったよ、次回も頑張って」、Bチームには「結果は良くなかったから、次回は頑張って」と伝えます。再びテストを行うと、Aチームには促進がかかり、Bチームには抑制がかかったんです。自信の有無がパフォーマンスにもつながってくることが、研究でわかっています。

「思い込み力」と「ほどよいノイズ」がカギ!

——つまり「もくもく会」では、パフォーマンスを促進する方向で活用するのが良いということですね!

請園先生:「もくもく会は集中力が高まる」という思い込みがあると、作業はよりはかどるでしょう。基本的には、一人より誰かがいる方が促進は起こりやすくなるので、「もくもく会」に参加するだけで作業効率は高まります。それに加え、パフォーマンスを高めるための思い込みも重要です。

——思い込み! では「もくもく会」をやる時、どんなことに注意すると良いのでしょうか?

請園先生:いくつかポイントがありますが、まず「もくもく会」の目的・テーマを参加者同士で決めておくことが大切です。データ入力もくもく会、資料作成もくもく会、デザイン制作もくもく会など、参加者の目的が同じ状態で実施することがポイントになります。上司や著名人など「社会的インパクト」がある人が加わると、余計な促進と抑制がかかる可能性があるので、なるべくフラットな関係性の人たちで集まるのがおすすめです。

——対面とオフラインでの差はありますか?

請園先生:大きな違いはないですが、時間も場所も選ばずに実施できるのはオンラインのメリットです。またオンラインであれば、画面をオフにして音だけで参加できるので、人見知りの人でも参加しやすくなりますね。

——請園先生が考えるおすすめの「オンラインもくもく会」の進め方を教えてください。

請園先生:まず一人で作業できる、邪魔の入らない環境で行うこと。なるべく一人になれる場所を選びましょう。

実施する際の注意点、ポイントは大きく5個あります。

フィギュアスケーターのジャンプ成功失敗のイラスト

——マイクはオンにしたほうが良いのでしょうか?

請園先生:そうですね。電車の中やファミレスだとなぜか集中できる、という感覚を味わったことはありませんか? これは「注意葛藤説」と言って、集中したい時に電車の音や雑踏、他人の存在など別の注意物があることで葛藤が起こり、集中力が増していくという理論です。「オンラインもくもく会」の場合、もくもく会に参加している人たちの音(注意)が気になるのと、作業に集中しようという2つの気持ちで葛藤が生まれます。ですので、オンラインもくもく会では雑音を加えたり、マイクをオンにしたりするとパフォーマンスが高まるでしょう。

——なるほど! あえてBGMをかけることで注意葛藤説を引き起こすことは可能ですか?

請園先生:ジャズなど心地よい音楽ならありですね。他にも、電車やカフェの雑音といった環境音はおすすめです。ただしボリュームは、ほのかに聞こえるくらいがベスト。雑音として感じられる程度に調整しましょう。

——ありがとうございます。先生から教えていただいたポイントを踏まえて「オンラインもくもく会」を実施してみます!

実際に「オンラインもくもく会」をやってみた

請園先生に教えてもらったことを踏まえて、「オンラインもくもく会」を実施しました。今回の手順は以下の通りです。

参加メンバー

大成(おおなり)

大成(おおなり):営業本部コンサルティングサービス部に所属。中途入社2年目。ほんわかした見た目とおしとやかな話し方とは裏腹に、仕事はテキパキとこなしてみせる。チーム内では頼りがいのある存在。

新宮(しんぐう)

新宮(しんぐう):営業本部コンサルティングサービス部に所属。入社して10年以上のベテランだが、最近他部署から異動してきたため、メンバーの中では一番後輩にあたる。福岡在中につき、会議やメンバーとのコミュニケーションはオンラインが中心。

村上(むらかみ)

村上(むらかみ):営業本部コンサルティングサービス部に所属。新卒入社2年目。一見物静かな印象だが、積極的に新たな業務にチャレンジしたり、急なお誘いでもフットワーク軽く参加したりなどアクティブな一面も。音楽フェスが好き。

<実施スケジュール>

10分:開始前のルール確認

50分:もくもく会(1セット目/画面オフ&マイクオン)

10分:休憩

50分:もくもく会(2セット目/画面オフ&マイクオン&BGMに電車の音)

10分:休憩

30分:振り返り会

<作業内容>

主に事務作業、単純作業を中心に行う。

大成:メール対応&操作手順の資料作成

村上:メール対応

新宮:勉強会の資料作成

まずは基本通りにすすめ、「心地よい」もくもく会を探るのがGOOD

初めての「オンラインもくもく会」を終えた3人に、さっそくお話をお伺いしてみました。

オンラインもくもく会実施後インタビューの写真

——「もくもく会」に参加してみていかがでしたか?

村上
村上

自分のタイピング音や椅子を引く音などがほかの2人に迷惑にならないか気になって、あまり動かないようにしずか〜に作業していました。普段はリモートワークが中心で、そういったことを考えずに仕事ができていたので、今回は正直ちょっと疲れちゃいましたね。

新宮
新宮

わかります。僕も普段はリモート中心なのですが、作業中は独り言が多くて(笑)。ぶつぶつ言いながら作業しているので「心の声を漏らさないように……」と、かなり気を使ったというか、緊張感がありました。

大成
大成

緊張感、ありましたね! 同僚たちに緊張することはないんですが、常に「見られている」感覚があったので、仕事しなきゃ……と(笑)。

新宮
新宮

でも、慣れてくるとそれが良い緊張感に変わっていって、集中力は増した気がします。

大成
大成

良い方向に作用したんですね。私は普段から集中しやすいタイプなので、正直、特段「いつもよりはかどった!」とは思いませんでした。カメラはみんなオフでしたが、ちょっと人を意識しすぎちゃったのかも。

新宮
新宮

そうですね、僕も最初の30分は変に人を気にしすぎていた気がします。でも、それ以降は落ち着きました。むしろ、やる作業がみんなで決まっていたという要素がすごく良かったです。

村上
村上

確かに! 3人が同じようなテーマで作業していると、いつもより脱線しにくかった気がします。

新宮
新宮

普段だと、自分の作業をしている間にチャットやメールが来て気がそれてしまうことも多いんですよ。一人だと、脱線したところから戻ってくるのに時間がかかるのですが、今回は「これをやる」とみんなで集まっていたので、すんなりもとの作業に戻りやすかったです。やらなきゃ! って思わせてくれましたね。みんなで頑張ろうって気持ちになれたのではないかな? と。

——前半では無音、後半では電車の音を流しました。みなさんの心境に変化はありましたか?

村上
村上

私は、普段からカフェのBGMをかけながら仕事していたので、電車の音は心地良いと感じました。音があったことで「動いてもいいかな」って思えたので。後半は、2人の存在を忘れるくらい集中できましたね。

新宮
新宮

村上には合っていたんですね。僕は出張が多い仕事柄、飛行機や新幹線の中で作業することも多いので、そういった環境の方が集中できるのかな? と最初は思っていました。でも、普段からBGMはかけないタイプだったので、やっぱり少し気になっちゃいましたね。

大成
大成

そうですね、私も新宮と同様です。無音の方が集中できるタイプなので、後半はちょっと騒がしく感じました。そういえば、以前会社の同僚と「仕事中に音をかけるか?」と話したことがあって。その時に、無音派と音アリ派と半々だったんですよ。

村上
村上

へぇ! 今も半々に分かれているので、状況は同じですね。

大成
大成

今後「オンラインもくもく会」をする際には、それぞれの派閥にわかれて実施するとより良い効果を期待できるかもしれないですね。

——ありがとうございます。では、 今後も「もくもく会」は実施してみたいですか?

村上
村上

BGMありならやりたいです!

新宮
新宮

時間とテーマを区切って作業するだけでこんなにも集中できるのか! と実感できたので、効率よく作業したい時に、もくもく会をやりたいですね。

大成
大成

今後は、カメラオフ、マイクオフのもくもく会を一度やってみたいです。オンラインで繋がっているだけでも「見られている」は意識できるので、色々なやり方を試しつつ、自分にベストなもくもく会をつくっていくのもいいかもしれませんね。

——お三方とも、ありがとうございました!

実際に「オンラインもくもく会」を実施してみて、請園先生に教わったことが実証できた部分と自分用にアレンジすることでより、快適なもくもく会ができると感じました。今回参加したアイキューブドシステムズ社員の3人からは、「今後はもっと、もくもく会を仕事に取り入れていきたい」「自分に合うもくもく会を探していきたい」と前向きな意見が多く出ていて良かったです。

まずは基本の「もくもく会」をやってみる。そこから自分たちのやりやすいようにアレンジを加えることで、作業のパフォーマンスを高められるのではないでしょうか? これから「オンラインもくもく会」を実施しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね!

取材・文:つるたちかこ イラスト・アイキャッチ:小峰浩美 編集:本田・木崎/なるモ編集部、中込有紀/ノオト

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